その自主トレ、なぜ「忘れてた」になるのか?|やる気ではなく、動機づけを設計する方法
2026.08.14
深掘りセラピストマガジンVol.7|その自主トレ、なぜ「忘れてた」になるのか?〜やる気ではなく、動機づけを設計する方法〜

八柄
齊藤さん、今日もよろしくお願いします。はじめに、火曜のLINEに答えてくださったみなさん、ありがとうございました。
今週は、患者さんへの説明や声かけで「いちばん手応えがないのはどの場面ですか」とお聞きして、34件の回答をいただきました。
いちばん多かったのは34件のうち18件で、自主トレを続けてもらうための動機づけでした。答えてくださった方の半分以上が、同じ場面を選んだことになります。
臨床の場面を詳しく共有してくださった方もいたので、二つ紹介させてください。
「これをやってくださいって言って、わかりましたって返事を貰うけど、忘れてたは多いですね」
「痛み予防につなげるためのストレッチ等の課題だが、動かすと痛みを生じると受け入れ不良」
一つ目は、伝わった手応えはあったのに、家では実行されないという話ですね。二つ目は、やってもらおうとすると痛みが出て、そこで受け入れてもらえなくなるという話です。
この「わかりました」からの「忘れてた」、僕も毎週のように経験します。正直、自分の説明が下手なんだろうと思ってきました。

齊藤
耳が痛い話だねぇ。人のこと言えないんだよ、私。寝る前のストレッチが、今年もう三回目の三日坊主でね。
メニューを三種類、紙に書いて冷蔵庫に貼ってあるんだよ。でもやらない理由なら毎晩出てくるんだよね。今日は遅いとか、ソファから動きたくないとか。

八柄
僕なりに、説明には手を尽くしてきたつもりなんです。課題の目的を伝えて、回数を決めて、メニューは紙に書いてお渡しして。
絵を描いてお渡ししたこともあります。それで「わかりました」と言っていただけると、届いたと思うじゃないですか。でも次にお会いすると「ああ、忘れてた」で。
だから最近は、もっとやさしい言葉にできないかとか、伝える順番を変えようかとか、説明のほうをずっと工夫していました。
関われる時間の外側で、課題は忘れられます。この帯の外側でも課題が続く形を、ここからの対談で考えていきます。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

齊藤
……八柄くん、いま私のストレッチの話、きれいに流したねぇ。まあいい。それより、ひとつ聞いていい?
その「わかりました」ね。患者さんは何に対して「わかりました」と言ってくれてるんだと思う?

八柄
やり方と回数に、だと思っていました。だから説明が悪かったのなら、もっとかみ砕けば伝わるはずで。
でも、かみ砕いても結果はあまり変わらないんですよね。……そう言われると、何への「わかりました」なのか、確かめたことがないです。

齊藤
そこなんだよね。「わかりました」は、やり方が伝わったという意味では本当だと思うよ。八柄くんの説明なら、やり方は届いてる。
ただ、渡した課題をやってもらえないのは、裏返せば、その課題が本人には必要に見えていないというサインだ、という指摘があってね。
もうひとつ。何が効いたのか、本人にも私たちにも分かっていない課題は続かない。さっきの私の冷蔵庫と同じでね。
どれが効いているのか分からないと、患者さんは減らす判断ができない。だから「全部やる」か「全部やめる」の二択になってしまう。忙しい日が来れば、倒れるのは後ろのほうだよね。
確かめるのは、説明が伝わったかではなく、下の二つが埋まったかです。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
でも齊藤さん、必要性も説明はしているんです。「筋力が落ちると転びやすくなりますよ」とか、「動かさないと関節が固まりますよ」とか。
それでも、次の週には「忘れてた」に戻ります。痛みが出る方だと、説明の途中で表情が曇るのも分かります。正しいことを言っているはずなのに、押すほど引かれていく感じがあって。

齊藤
そうなるとね、「この方はやる気がないのかな」と思いたくなる。でも、やる気やモチベーションのせいにした瞬間に、こちらの打ち手はなくなるんだよね。相手の心の問題にしてしまうから。
私は逆だと思ってる。人は、やる気に関係なく、自分に必要だと感じたことはやる。続いている行動の代表は歯磨きでね。誰も歯磨きにモチベーションを使っていない。やらないと気持ち悪いから、やる。
だから狙う形は「頑張って続けてもらう」じゃなくて、「やらないと気持ち悪い」の側へ課題を運ぶこと。精神論をやめて、そこまでの道筋を設計する。
「忘れてた」は、この順で課題の側を点検します。ここから一つずつ、対談で見ていきます。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
「やらないと気持ち悪い」まで行けたら最強ですね。……でも、そもそも患者さんは、その「必要」を感じていないわけですよね。どこから手をつけるんでしょう。

齊藤
最初の一手は、課題を置く場所だよ。「転びますよ」は、こちら側の土俵の言葉なんだよね。体の仕組みから見た必要性だから。
でも本人が暮らしているのは、孫と散歩したいとか、店にもう一度立ちたいとか、生活の場面のほう。目標を聞いても、最初は「歩けるように」みたいなリハ用の答えが返ってくることが多いしね。
本人が望む暮らしにつながっていない課題は、どれだけ正しく説明しても「自分には要らないもの」に見える。つながった途端、こちらが黙っていても勝手に始める方を、私は何人か思い出せるよ。
課題は、望みからの逆算で決まります。「なぜこの練習なのか」という、つながりの説明までが課題の一部です。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
……あ。そうか。続かない原因を、僕はずっと「患者さんのやる気」か「僕の説明」のどちらかに置いていたけど。
先に確かめるのは課題のほうだったんですね。足りなかったのは説明の量ではなくて、課題の設計と、生活との接続だった。

齊藤
そういうこと。それで渡すときには、自主トレを三つのレベルに分けて考える整理があってね。私はこれで「忘れてた」が減った。
レベル1は、本人ひとりでできるメンテナンスの練習。レベル2は、活動量を担保する練習。レベル3は、ご家族や私たちの見守りの下でやる、挑戦的な質の練習。
続かない事故は、レベル3を一人の宿題にしたときに起きやすい。できなくて、疼痛が出て、そのままやめてしまう。挑戦は目の前でやって、家に持ち帰るのはレベル1と2。
そのうえで渡す数は一個。「今日やった中で、どれなら家でできそうですか」と、本人に選んでもらう。自分で選んだ課題は、やらされ感が消える。
それを、歯磨きみたいに毎日やっている習慣のすぐ後ろに置いてもらう。ここまで設計して、初めて「思い出す力」に頼らなくなるんだよ。
レベルの取り違えは、やる気の問題に見えます。「できない課題を一人で」になっていないか、渡す前にレベルを確かめます。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
レベル分け、明日から使えそうです。……もうひとつ。最初におっしゃった「効いた実感」は、どう作るんでしょう。
僕の患者さんは、課題をやっても変化を感じていない気がします。だから「効くから続けてください」と、言葉で補ってしまうんですが。

齊藤
言葉で補わずに、課題の前後で、同じ動作を一緒に確かめる。歩きにくさなら、難易度を下げた練習をひとつ挟んで、もう一度同じ場面を歩いてもらう。
そこで「さっきより軽い」が本人の口から出たら、その練習が持ち帰りの候補になる。変化を本人が確かめたくなったら、次の一回はもう、こちらが頼まなくても始まってるよ。
逆に、前後を確かめずに渡した課題は、効いたかどうか誰にも分からない。「なんとなくやって、なんとなくやめた」になるのは、たいていここが抜けたとき。
実感は説明では渡せません。前後を一緒に確かめた「さっきより軽い」だけが、次の一回を連れてきます。
※登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
……最後にひとつだけ。二つ目のお悩みの、痛みが出る方はどうでしょう。
「動かすと痛い」と言われると、僕はつい「痛くない範囲で大丈夫ですよ」と言葉を足すだけになってしまうんです。

齊藤
あの拒否反応はね、気持ちの問題というより、体の仕組みとして筋が通っているんだよ。人の体は、自分から動くときは、運動に先立って感覚の予測を立てて準備している。
試しに、自分の脇腹を自分の指でつついてみて。びくっともしないでしょう。同じ強さでも、他人につつかれると身構える。予測の立たない刺激は、不快や疼痛として感じ取られやすい、という報告があってね。
だから他動で先に伸ばす課題は、それだけで防御を呼びやすい。こちらから先に動かさない。本人が動き出したところに、手を貸しに入る。課題も疼痛が出る一歩手前まで段差を低くして、成功の回数を増やす側に振る。
一般に知られている運動制御の考え方の整理です。予測の立つ形で課題を渡すことが、痛みと拒否の予防になります。
※運動制御・感覚予測に関する一般的な知見と、登壇講師の配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。

八柄
整理します。「わかりました」をゴールにしない。やる気のせいにもしない。そのうえで、
- 課題は、本人が望む暮らしにつながる形で渡す
- メンテナンス・活動量・挑戦の三つのレベルに分け、挑戦は見守りの下でやる
- 前後を同じ動作で確かめて、効いた実感ごと持ち帰ってもらう
- 疼痛や拒否には先回りしない
説明を磨くのは、この設計が済んでからなんですね。
きょうの視点(持ち帰り3つ)
- 「わかりました」はやり方が届いた合図。必要と実感は、まだ届いていない
- 自主トレはメンテナンス・活動量・挑戦の三つのレベルに分ける。挑戦は見守りの下、持ち帰りは本人が選んだ一個
- 渡す前に同じ動作の前後比較で即時変化を一緒に確認。疼痛・拒否には先回りしない

齊藤
うん。それだけで、来週の「忘れてた」は少し減ると思うよ。……よし、私も決めた。冷蔵庫のストレッチ三種類は、今夜で引退。
あれは全部レベル3だったんだよ。一個にして、歯磨きの後ろに置く。やる気は出さないことにするよ。歯を磨いたら、ついでに始まってるという寸法だ。

八柄
(苦笑)自宅のストレッチがレベル3って、どんな挑戦をする気だったんですか。あと、その引退宣言を聞かされるご家族の身にもなってください。
……でも、それで続いたら本物です。自主トレは、やる気ではなく、設計で決まる。今日は、そういう話でしたよね。
齊藤
八柄今週は、そこから確かめてみてください。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
今日の記事が良かったという方は、スタンプを送ってもらえると嬉しいです。臨床のお悩みや相談はいつでもLINEに送って下さい!
企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
テーマ:
CATEGORY
人気記事
テーマ
All for the therapist
全てはセラピストの成長と、たくさんの笑顔のために