肩は、肩だけでは上がらない|石井慎一郎先生「運動連鎖で読み解く!肩関節複合体の理学療法」
2026.08.12
肩は、肩だけでは上がらない|石井慎一郎先生「運動連鎖で読み解く!肩関節複合体の理学療法」
2026年8月11日、石井慎一郎先生の「運動連鎖で読み解く!肩関節複合体の理学療法」を開催しました。
6時間ぶんの内容を、ここで全部お渡しすることはできません。ただ、3つだけお裾分けさせてください。
どれも「なぜ制限が生じるのか」という機序の話です。機序が分かると、明日の評価から変わります。
1. 90度から先の挙上は、鎖骨のクランクが作る
背中を軽く丸めて、背骨が伸びたり回ったりしないように固定します。そのまま、肩を挙げてみてください。
おそらく、120度あたりで止まります。
肩の挙上は、肩甲上腕関節・胸鎖関節・肩鎖関節・脊柱の運動の合計です。
教科書どおりの肩甲上腕リズムは1:2です。ただし90度を超えるとこの比は逆転し、肩甲骨のほうが大きく動く2:1になります。
この逆転を作っているのが、鎖骨です。
鎖骨はクランクシャフトの形をしています。まっすぐな棒は、軸のまわりに回しても端の高さが変わりません。
クランク形状の鎖骨は違います。後方に回旋すると、遠位端の肩峰が持ち上がります。
ここが、講義でいちばん唸った箇所でした。
前鋸筋が肩甲骨を上方回旋させると、烏口鎖骨靭帯が引き伸ばされます。その張力が、クランク型の鎖骨を後方に回します。
つまり、筋が鎖骨を直接回すのではありません。靭帯の張力を介した、受動的な機構です。
この機構は随意制御の外にあるので、患者さんが意識して代償することはできません。
先生の実演がありました。鎖骨に指を引っ掛けて、後方回旋だけを止める。それだけで、腕が挙がらなくなります。
120度から先を担うのは、冒頭で試したとおり脊柱です。
2. リズムを崩す犯人は筋力ではなく「配置」。出発点は肋骨
肩甲上腕リズムの異常は、「筋力低下」や「筋のアンバランス」で説明されがちです。講義では、それだけでは足りないと整理されていました。
全身麻酔下でも、他動的に挙げればリズムは生じる。遺体では、生じない。
配布資料の言葉を借りれば、リズムは「筋収縮だけでなく『構造配置』により決定される運動戦略」です。
「筋力低下」に見えるものの手前で、配置の崩れが先に起きている。これが講義全体に共通する見方でした。
では、配置はどこから崩れるのか。
最初に変性が始まるのは、胸椎です。肩甲骨は胸郭の面の上しか動けないので、後弯が増えると初期位置が前傾・下方回旋になります。
その胸椎を止めているのは、椎間関節ではなく肋骨です。胸郭を動かす筋のほとんどが肋骨に付いていて、肋骨→胸椎の順で動かなくなります。
最初に疑う筋は、前鋸筋です。第2肋骨への付着部だけが突出して大きく、過緊張になると第2肋骨を前方回旋位に固定します。
第2肋骨が下がると第1肋骨と鎖骨も引き下げられ、肋鎖靭帯が張って鎖骨が挙上できなくなります。
ここで1つめの話とつながります。鎖骨が動けなければ、肩甲骨は上方回旋を続けられません。それでも腕は挙げるので、肩甲上腕関節が肩代わりして過剰に動き、インピンジメントが起きます。
数字も印象的でした。腱板が骨頭を押さえられず三角筋が主体になった挙上では、わずか22度の外転で骨頭が約1cm上方へ並進します。肩峰下のスペースは、もともと1cmあまりです。
講義の中で、「よく分からなかったら、まず前鋸筋を緩めてみるといい」という言葉がありました。
経験則のようにも聞こえます。ただ、前鋸筋→第2肋骨→第1肋骨・肋鎖靭帯→鎖骨→肩甲骨→肩甲上腕関節という連鎖を知ってから聞くと、聞こえ方が変わります。
3. 「弱い」「硬い」と書く前に、配置を読む
講義でもっとも警戒されていたアライメントが、肩甲骨の下方回旋です。
下方回旋位では、棘上筋と上方関節包がたるみます。骨頭を関節窩に繋ぎ止める張力が出せなくなり、骨頭が下がります。
すると、たるんだ棘上筋の代わりに、上腕二頭筋長頭が骨頭を吊り上げはじめます。長頭の緊張が高まると、その張力がさらに肩甲骨を下方回旋させます。
講義の言葉を借りれば、「ドツボにはまる」悪循環です。
先生は、こう言い切られていました。「上腕二頭筋のトーヌスが高い人は、肩甲骨がまず間違いなく下方回旋している」。
だから、順番はこうなります。上腕二頭筋を揉む前に、肩甲骨の回旋位置を直す。
片麻痺の肩の亜脱臼も、同じ論理で通説が覆されました。「筋が麻痺して重力に負けるから落ちる」という説明は、成り立たないそうです。
上方関節包と関節上腕靭帯という硬い組織があるので、筋が働かなくても本来は落ちません。落ちるのは、肩甲骨が下方回旋して、これらの張力が抜けるからです。
午後のケーススタディは、この「配置を読む」が決め手になった回でした。
80代の女性。右肩関節周囲炎、発症6か月。肩甲骨は過剰に上方回旋しているのに、肩甲上腕関節がほとんど動いていない。
先生はまず、下垂位・90度屈曲位・外転位の3肢位で外旋を確かめます。制限の出る肢位の組み合わせから、制限因子を消去法で絞り込むためです。
この方は、3肢位すべてで外旋が制限されていました。3つすべてに共通して登場する組織が原因です。前方関節包・肩甲下筋・大胸筋が候補に残ります。
ここまでなら、「前方関節包の短縮」と読みたくなるところです。
ところが、徒手で確かめると違いました。
上腕骨頭が前方に変位して、後ろに戻らない状態でした。前方関節包は短縮していたのではありません。前に出た骨頭に引き伸ばされて、張っていただけでした。だから外旋が出なかったのです。
介入も変わります。関節包を緩めるのではなく、骨頭を後ろに戻す。
先生は大胸筋・肩甲下筋・前鋸筋を緩めて、骨頭と肩甲骨の位置関係を整えました。関節包そのものには特別な操作をしないまま、挙上の可動域が改善しています。
ひとつ付け加えると、前鋸筋が過緊張の人は、棘下筋もセットで硬いことがほとんどだそうです。前鋸筋が肩甲骨を前方突出させると手掌面が内を向き、それを棘下筋の外旋で補正するためです。片方だけ緩めても、戻ってしまいます。
明日の臨床、まずどこから
3つに共通するのは、順番でした。
痛い場所や硬い場所からではなく、まず配置から読む。
胸椎と肋骨、鎖骨と肩甲骨の位置を見てから、肩甲上腕関節に降りていく。カフエクササイズは、アライメントが整ってからです。
静的アライメントの目安も、数値で示されていました。
後ろから見ると、肩甲骨の内側縁はわずかにハの字で、安静位で3〜5度の上方回旋位が正常です。内側縁が垂直なら、中間位ではなくすでに下方回旋しています。
前から見ると、鎖骨はわずかに挙上しているのが正常です。水平なら、下がっています。
肩峰の前後位置は、胸骨柄の向きを正面に合わせてから読みます。そうしないと、体幹の回旋にごまかされます。
アライメントの異常を見つけたら、他動で切り分けます。他動で上方回旋できるなら回す筋の弱化、抵抗があって回らないなら引く筋の過緊張です。
後者に僧帽筋のトレーニングをしても、入りません。先に、引っ張っている筋を緩めます。
ここに書けたのは、6時間のうち「考え方」の骨組みまでです。書けなかったことを、正直に挙げておきます。
- ✅ 前鋸筋のリリースや胸鎖関節のモビライゼーションの実際の手つき
- ✅ 僧帽筋下部線維のトレーニングの肢位
- ✅ 結帯動作が戻らない方への介入
- ✅ 肋骨のねじれの触診
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本当に面白いセミナーでした!
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