その分回し、
2026.08.01
深掘りセラピストマガジンVol.5|その分回し、”いつから”見ていますか〜振り出しの異常は、立脚後期で作られる〜
八柄
片麻痺の方で、振り出しに分回しが出る方がいて。
そこがおかしいと思って、そこばかり練習させるんです。でも、変わらない。
その日のカルテには、「歩行不安定」としか書けませんでした。
齊藤
あるね。目についたところを練習しても、変わらない。
この前、この連載で聞いてみたんだ。歩行で困るのはどこを観るかの絞り込みか、観えた異常の原因の見極めか。答えは割れたよ。
……こういう話をしていると、いつも朝の玄関を思い出すんだ。鍵が見つからなくてね。ポケットも鞄も全部ひっくり返すのに、出てこない。
八柄
(その話、いまいりますか)
……とにかく、振り出しの瞬間はずっと見ているんです。分回しが出るのは、そこですから。
齊藤
鍵の話は後で効いてくるから、置いといて。
ひとつ聞きたい。その振り出しを、八柄くんは“いつから”見てる?
八柄
……振り出しが始まってから、です。
そこで起きていることなので、そこを見るものだと思っていました。
齊藤
そこなんだ。さっき割れた二択、じつは別々の質問じゃないんだよ。
以前セラフォーで、筋緊張と異常運動の観察を扱った回があってね。そこで得たものを自分の臨床で当ててきて、いまはこう考えてる。
異常が目につく相と、それが作られた相は、同じとはかぎらない。
振り出しがうまくいかない原因は、一つ手前の相にあることが多いんだ。
異常が目につく相と、それが作られた相は同じではない。振り出しの異常を振り出しで直そうとすると、原因のある相に一度も触れないまま終わる。
※本文で述べた見方を、当メディアで概念図化(新規作図)。
八柄
作られた相……ですか。
振り出しで起きているのに、原因は振り出しにない、ということですか。
齊藤
そう。順を追うとこうなる。
立脚後期になれば、膝を伸ばす収縮はもう要らない。ところがその収縮が止まらない。膝が曲がらないから、振り出すときに脚が短くならない。
短くならない脚を前へ出そうとすると、外へ回す方向になる。あの方の分回しは、そうやって出ていたんだ。
だから振り出しをいくら練習しても変わらないんだ。練習している相が、そもそも違う。
上から下へ、立脚後期に収縮が終わり損ねる → 脚が相対的に短縮できない → 分廻し歩行と連鎖している。結論も「問題点は、立脚後期の…収縮減少の遅延」「運動療法は、立脚後期に…タイミングを早める練習」——見えた相ではなく、一つ手前の相を練習する、と明記されている。
出典:山本泰三先生(株式会社スターティングアゲイン/スタビリティ研究会)「片麻痺の体幹スタビリティと歩行が変わる〜筋緊張・異常運動・体幹機能を正しく観察するポイント〜」(2025年1月11日・一般社団法人セラピストフォーライフ主催)配布資料より
八柄
なぜ立脚後期なんですか。振り出しの直前だから、ということですか。
僕はずっと、振り出す側の出力が足りないんだと思っていました。だから振り出しばかり練習させていて。
齊藤
振り出しに入る前に、膝を伸ばす収縮が終わっていないといけないからだよ。
ところが、歩くこと自体が、あの方には難易度の高い課題だ。努力的になるほど、その収縮は強くなって、終わり損ねる。
厄介なのは、収縮が止まっていないこと自体は外から見えにくいところ。見えるのは分回しのほうなんだ。
だから「振り出しがおかしい」という印象は正しい。正しいのに、直す場所じゃない。
八柄
……印象は正しいのに、直す場所じゃない。
でも、それだとどこまでさかのぼればいいんですか。一つ手前、そのまた手前と、きりがない気がします。
齊藤
いい問いだね。どこまでさかのぼるかは、安静時を診ておくと見当がつくよ。
ひとつめ。安静時に筋緊張が亢進している筋を見つけておく。仰臥位のような安定した姿勢で、他動運動で抵抗を診る。
そこで亢進している筋は、動作のときに連合反応として収縮が起きやすい。だから先に見つけておくんだ。
八柄
……僕は逆でした。先に歩いてもらって、歩きの中からおかしいところを探していました。
安静時と、歩いているときを分けて診る。そういう見方をしていませんでした。
齊藤
そう。ふたつめ。動いてもらって、安静時と比べる。立ってもらう、歩いてもらう。
多くは非麻痺側を努力して使ったときに、麻痺側に不随意に起きる収縮——それが連合反応。さっき診ておいた抵抗と比べて、動いたあとで増えていたらそれだよ。
連合反応で収縮した筋は、その場で伸ばしてもまた戻る。伸ばすことと、その収縮が起きる理由をなくすことは、別だからね。
八柄
……その二つ、分けていませんでした。
安静時から抵抗がある方と、歩くと抵抗が増える方。どちらも同じ「筋緊張が亢進している」で片づけていました。
齊藤
そう。みっつめ。連合反応だと分かったら、その収縮を引き起こした“きっかけ運動”を見る。
靴下の場面が分かりやすい。前へかがむときに非麻痺側の股関節と膝を強く伸ばす。すると麻痺側の膝がすっと伸びて、足が遠くへ行って届かない。
見るのは伸びた膝じゃない。その前に、非麻痺側を強く使ったこと。きっかけ運動の運動制御を変えないかぎり、連合反応は抑制できないんだ。
①先に安静時の亢進を見つけるのは、その筋が動作のときに連合反応として収縮しやすいから。②動いてもらって、安静時に診た抵抗と比べる。増えていたら連合反応——収縮した筋をその場で伸ばしても、また戻る。③その収縮を引き起こしたきっかけ運動の運動制御を変えないかぎり、連合反応は抑制できない。この順番を崩すと、何と比べているのかが分からなくなる。
※本文で述べた見方を、当メディアで概念図化(新規作図)。
八柄
きっかけ運動をたどると、最初の立脚後期に戻ってくるんですね。
ただ、力が入ること自体は誰にでもありますよね。僕も重い物を持つときは歯を食いしばります。
どこからが問題なんでしょう。
齊藤
そう、そこに戻ってくる。そして力が入ること自体は——それは連合反応と似ているけれど別のもので、連合運動という。針に糸を通すと顔が歪む、初めてハサミを使う子は口が一緒に動く——難易度が高ければ健常でも出る、正常な反応だよ。
難易度が高ければ、連合運動は片麻痺の方にも起きる。
分かれ目はやめられるかどうか——ほかのやり方も選べるか。いつも同じやり方しかできない。そうなって初めて、問題になる。
八柄
やめられるかどうか……。
僕は、力が入ること自体を止めさせようとしていました。「肩の力を抜いて」と声をかけて。
じゃあ、やめられない力みが出ているときは、どうすればいいんでしょう。
齊藤
課題難易度が高すぎるサインだから、出ない難易度まで下げる。
下げ方はいくつかある。ひとつは重さを減らすこと——床と平行な方向に近づける。MMTの2の段階づけと同じ考え方だね。
課題そのものを小さくしてもいい。靴下なら、足を台に乗せて、前へかがむ量を減らす。下げるのは楽にさせるためじゃない、きっかけ運動を作り直せる条件をつくるためだよ。
だから、出なくなったら台を一段ずつ低くして戻す。
難易度を下げるのは楽にさせるためではなく、きっかけ運動を作り直せる条件をつくるため。下げ方はひとつではない——重さを減らす(=床と平行な方向に近づける/MMTの2の段階づけと同じ考え方)ほか、課題そのものを小さくする(台に足を乗せて前かがみの量を減らす)方法もある。だから出なくなったら戻す。台の高さのように、一段ずつ動かせるものを選ぶと運用しやすい。
※本文で述べた見方を、当メディアで概念図化(新規作図)。
八柄
……これ、所見にはどう書けばいいんでしょう。
「筋緊張が亢進している」だけだと、たぶん足りないですよね。
齊藤
足りないね。亢進しているから異常な運動が出ているのか、異常な運動をしているから亢進しているのか。どちらで書くにも、評価がいるんだ。
書いた説明が、あとで確かめられる形になっているか。そこを気にかけておくといいよ。
八柄
……それ、毎回書いていました。
「筋緊張が亢進しているため動作が不安定」。いつ評価したのかと聞かれたら、確かに答えられません。
齊藤
だから僕は、評価した順番を書くようにしてる。安静時に何を診て、動いてもらって何が増えて、どのきっかけ運動に行き当たったか。
そして、起きていたことには名前をつけて書く。「連合反応が出た」と書いてある記録は、あとから読んでも分かるんだ。
八柄
整理します。まず安静時に亢進している筋を見つける。そこが連合反応で収縮しやすい。
次に動いてもらって比べる。増えていたら、きっかけ運動のほうに用がある。
書くのは筋緊張の高さだけじゃない。評価した順番と、行き当たったきっかけ運動に、名前をつけて。
……振り出しを見ていた時間、ほとんど全部、見る場所が違っていたんですね。
きょうの視点(持ち帰り3つ)
- 異常が目につく相と、作られた相はずれる。分回しは、立脚後期に膝を伸ばす収縮が止まらず、膝が曲がらないまま振り出しに入ることで作られていることがある。見える相を練習しても動かないときは、一つ手前を見る。
- 順番は、安静時 → 動作 → きっかけ。①安静時に筋緊張が亢進している筋を見つける(その筋が連合反応として収縮しやすい)→②動いてもらって比べる →③安静時より増えていたら連合反応で、その収縮を引き起こしたきっかけ運動の運動制御を変えないかぎり抑制できない。収縮した筋を伸ばすだけでは、また戻る。書くのは筋緊張の高さだけではなく、評価した順番と、行き当たったきっかけ運動。
- 連合反応と連合運動は似ているが別物。連合運動は課題難易度で起きるもので、健常でも出る正常な反応。難易度が高ければ片麻痺の方にも起きるので、連合反応と併せて考える。分かれ目はやめられるかどうか=ほかのやり方も選べるか。やめられないなら難易度を下げる——重さを減らすか、課題そのものを小さくする。出なくなったら戻す。
齊藤
そういうこと。見えたところを直そうとして動かないときは、たいてい一つ手前に用がある。
……で、鍵の話なんだけどね。玄関でいくら探しても出てこないんだ。いつも入ってるのは、前の晩に脱いだ上着のポケットなんだよ。
八柄
伏線それですか。
……でも、探している場所が、そもそも違う。まさに今日の話ですね。
その一つ手前の相を、もう一度だけ見てみてください。
読後の感想を、ひとことお寄せください。
次にどんな症例を、どんな角度で扱うかの手がかりにさせていただきます。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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