肩の夜間痛、炎症期か拘縮期か|「角度が出た=良くなった」を疑う

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2026.07.24

深掘りセラピストマガジンVol.4|肩の夜間痛、炎症期か拘縮期か~「角度が出た=良くなった」を疑う~

深掘りセラピストマガジン|Vol.4
対談:セラフォー齊藤 × セラフォー八柄

yagara(wonder)

八柄

齊藤さん、火曜のLINEで肩について聞いてみたんです。「肩の痛みへの対応で、いちばん手が止まるのはどの場面ですか」と。

選択肢は3つ。Aが夜間痛がある方の解釈(炎症期なのか、拘縮期なのか)、Bが可動域制限の制限因子の見極め、Cがその他で。

いちばん多かったのが、Aでした。

……正直、僕もAで止まります。炎症期だと思えば無理に動かせないし、拘縮期だと思えばしっかり伸ばしにいく。やることが真逆になるので、外すのが怖いんです。

saito(joy)

齊藤

ああ、Aか。分かるよ、その怖さは。

私もね、迷うときほど数字に頼りたくなるんだよ。……お恥ずかしい話、自分の肩まで測ってるからね。風呂上がりに、外旋がどこまでいくか。

5度増えてると、それだけでいい一日だったなと思えるんだよねぇ。

yagara(base)

八柄

僕なりの手順はあるんです。夜間痛が強くて、動かすと痛い。可動域も出ない。これは炎症期かな、と。

逆に、痛みは落ち着いてきたのに硬さだけ残っている。じゃあ拘縮期だから伸ばしにいこう、と。

……でも、その通りにやっても夜の痛みだけ変わらない人がいて。そこで毎回止まります。

saito(ask)

齊藤

……八柄くん、いま私の肩の話、きれいに流したねぇ。

まあいい。それより、いまの手順を聞いていてひとつ気になった。

その炎症期か拘縮期かを決めるとき、何を手がかりにしてる?

yagara(base)

八柄

……可動域、ですね。

外旋が硬ければ拘縮が進んでいる、まだ動くなら炎症寄り。そういう見方をしています。

saito(base)

齊藤

そこなんだよね。その可動域が、実は曲者でね。

夜間痛が強い人ほど外旋や結帯が悪いのは、報告でも出ている。それは事実なんだ。

ただね、その外旋制限のほうが「結果」なんだよ。制限を作っている何かが上流にあって、その何かが疼痛の本体でもある

図解 | 夜間痛が強い群と軽い群の可動域

夜間痛が強い群と軽い群で自動可動域・筋力・インピンジメント所見を比較した表。外旋と結帯動作に有意差がみられる。

夜間痛が強い群では、外旋と結帯動作に差が出ている。屈曲・外転には差が出ていないのが、この表の読みどころ。

出典:山本敦史:腱板断裂における夜間痛の背景因子と腱板修復の術後成績に与える影響.肩関節 33:419-422,2009.

yagara(wonder)

八柄

上流……。

つまり、可動域の制限と夜の痛みが、別々に起きているわけじゃないということですか。

同じひとつのものから、両方が出てきている、と。

saito(base)

齊藤

そういうことだね。そのひとつが粘性抵抗だよ。組織間の滑走性が落ちた状態、と言い換えてもいい。

同じ外旋60度でも、抵抗なく到達する人と、抵抗を押し切ってやっと到達する人がいるだろう。角度は同じでも、中身はまったく違う。

ところが角度だけを記録していると、この違いは残らない。どちらも同じ「外旋60度」と書かれてしまうからね。

だから炎症期か拘縮期かで迷うより先に、そこを触って確かめたほうが早いんだよ。

機序メモ | 一般に知られている考え方

侵害受容を担うのは組織内圧、その内圧を高めるのが粘性抵抗

組織間は本来、わずかな抵抗で滑走する。滑走性が低下して粘性抵抗が上がると、運動時の引っ張り応力が増し、その部位の組織内圧が高まる。

圧刺激に応答する自由神経終末(ポリモーダル受容器)がこれを侵害刺激として受容し、疼痛として認知される。

したがって同一の可動域角度でも、臨床的な意味は異なる。抵抗なく到達した角度なのか、抵抗を押し切って到達した角度なのか。前者は量的評価と質的評価が一致し、後者は量的評価のみが一致した状態といえる。

組織の粘弾性と侵害受容に関する知見をもとに、当メディアで整理。

図解 | 角度は「結果」、上流にあるもの

粘性抵抗が高い場所を上流とし、そこから可動域制限と痛みという二つの結果が下流に生じる構造を示した概念図

可動域制限と疼痛は、並んだ「結果」。上流の粘性抵抗を残したまま角度だけを動かしても、疼痛の側は変わらない、という構造。

※当メディアで作成した概念図です(新規作図)。原画の転載ではありません。

yagara(wonder)

八柄

……いま聞いていて、思い当たることがあります。

同じように外旋のストレッチをして、スッと楽になる人と、角度は出たのに夜は変わらない人がいました。

あの差は、何だったんでしょう。

saito(base)

齊藤

そのやり方が、粘性抵抗の高い部位そのものを動かせていたときだね。狙いが結果的に当たっていたんだ。

代表的なのが腱板疎部だよ。棘上筋と烏口上腕靭帯のあいだ、肩甲下筋と烏口上腕靭帯のあいだに指を差し込んで、圧を保持したまま運動させて離開させていく。

このとき可動域と疼痛は連動して動く。角度が目的なんじゃなくて、狙った部位の粘性抵抗が下がった結果として角度もついてくる。順番が逆なんだよ。

yagara(wonder)

八柄

じゃあ、角度は出たのに夜が変わらなかった人は。

同じことをやっていたつもりなのに、何が起きていたんですか。

saito(base)

齊藤

表層しか動いていないんだよ。超音波で見ると分かるけれど、深層が動いていなくても、表層だけ滑走すれば関節運動は起こる

つまり粘性抵抗の本体を残したまま、角度だけが増えていく。可動域の改善と疼痛の消失は、別の事象なんだ。

極端な例が授動術だね。麻酔下では神経が伸張されても疼痛は生じない。でも覚醒すれば、神経が圧迫を受けた状態のまま運動していることに変わりはない。

炎症所見があるときや、異常血管が関与しているときも同じ。運動療法単独で押し切る領域じゃないし、可動域訓練を重ねるほど組織に負荷をかけかねない。

術後経過にも同じことが出るよ。夜間痛が強かった症例ほど、外旋や結帯動作の回復が遅延するという報告がある。

図解 | 手術のあと、外旋と結帯はどう戻るか

夜間痛が強かった群と軽かった群で、術前から術後12か月までの自動外旋可動域と結帯動作の推移を比較した表。

夜間痛が強かった群は、術後12か月の時点でも外旋・結帯の回復が追いついていない。角度を出す介入をしても、残るものは残るという読み方ができる。

出典:山本敦史:腱板断裂における夜間痛の背景因子と腱板修復の術後成績に与える影響.肩関節 33:419-422,2009.

yagara(aha)

八柄

……あ。そうか。

僕は炎症期か拘縮期かで迷っていたつもりで、実際はその手前を飛ばしていたんですね。

角度という、いちばん測りやすいものだけを手がかりにしていたので。

ただ、現場では目の前の人がどちらなのか決めないといけません。そこはどう見分けるんですか。

saito(base)

齊藤

手がかりは3つある。ひとつめは疼痛部位だ。

外旋しても、挙上しても、外転しても同じところが痛いのか。それとも運動方向で場所が変わるのか。同一部位なら侵害受容している組織が同じ、分かれているなら別の問題として考える。

ふたつめは深層まで圧を加えた状態での可動域評価。表層だけが滑走しているのか、深層まで動いているのか。ここを触診で分けられるかどうかが、そのまま評価になる。

みっつめが温熱後の反応だね。温熱療法は正常血管の血流を促す一方で、異常血管の血流まで増やしてしまう可能性がある。温熱後に疼痛が増強する症例は、そこで気づける。

あと私の感覚で言えばね、指を入れた時点でもう違うんだよ。スッと沈んでいく人と、途中で跳ね返してくる人がいる。跳ね返してくる人は、角度だけ動かしても夜が楽にならないことが多い印象があるね。

図解 | 動かす前に、指を止めて確かめる

夜間痛の評価で確認する3つの観察ポイントと、進めてよい所見・立ち止まる所見を対比した図

「あるある」で手が出る前に置きたい3つの確認と、その結果としての2つの所見。右に振れたときは、角度を稼ぎにいかない。

※当メディアで作成した概念図です(新規作図)。原画の転載ではありません。

yagara(base)

八柄

整理させてください。

やっていい条件は、粘性抵抗の高い部位を触診で同定したうえで、そこに圧をかけながら運動させられているとき。角度は「ついてくるもの」として扱う。

避けたい条件は、表層しか動いていない触知所見のとき、炎症所見があるとき、温熱後に疼痛が増強するとき。ここで角度を稼ぎにいくと、粘性抵抗を残したまま数値だけが改善してしまう。

……最初に僕が止まっていた「炎症期か拘縮期か」も、先に触って確かめてからのほうが決めやすいということですね。

きょうの視点(持ち帰り3つ)

  • 夜間痛にともなう外旋・結帯の制限は「結果」。上流にある滑走性が低下し粘性抵抗が上がった部位を先に探す。
  • 評価に「運動方向を変えても疼痛部位は同一か」を一問足す。同一なら疼痛源はひとつ、分かれているなら別の問題。
  • 効果判定を「角度が出たか」ではなく「抵抗の質が変わったか」で見る。数値は測れるが、粘性抵抗は測れない。

saito(joy)

齊藤

そういうことだね。「夜間痛だから外旋」みたいに、パッと手が出るものほど確認を飛ばしている。

角度は測れば数値になるけれど、粘性抵抗は数値にならない。だからつい、測れるほうを見て安心してしまうんだよ。

……よし。じゃあ私は今日から、風呂上がりに自分の肩を測るのはやめる。代わりに、自分で触って確かめることにするよ。

yagara(panic)

八柄

(苦笑)齊藤さん、それ一生「抵抗なし」って出ますよ。自分の肩には、どうしたって甘くなりますから。

……でも、測るのはやめないでください。測って、そのうえで触る。今日はそういう話でしたよね。

saito(joy)齊藤
yagara(joy)八柄
角度は結果。狙うのは、粘性抵抗の高い部位。

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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄

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