深掘りセラピストマガジンVol.3|その肘の痛み、”どの組織”か言えますか?|Medical Contents
2026.07.17
深掘りセラピストマガジンVol.3|その肘の痛み、”どの組織”か言えますか?
八柄
齊藤さん、火曜のLINEで「肘・前腕」のお悩みを募ったら、いちばん多かったのがこのタイプでした。個人が分からない形に一般化してご紹介します。
——「外側のあたりが痛むという患者さん。テニス肘だと思って伸筋群をゆるめているけれど、なかなか戻らない。そもそも“どの組織”が痛みを出しているのか、自信を持って言えない」
この“どの組織か言えない”、本当に多いんです。——それでですね、ちょうど明日、小野志操先生の肘・前腕セミナーがあるじゃないですか。今日は先生の配布資料を予習しながら、二人でこの相談を考えてみませんか。
齊藤
あー、その感覚、よく分かります。まず私が気になるのは——「外側が痛い」の“外側”が、どこまで絞れているか、ですね。
外側上顆そのものなのか、その少し先なのか。あと、いつ・どの動きで痛むのか。文面だけだと、まだ絵が描けないんですよ。八柄くん、そのあたりの情報ってどれくらい取れてました?
齊藤
……これ、読んでくださっている先生にもうかがいたいです。もし目の前にこの患者さんが来たら、最初にどの仮説から立てにいきますか?
「外側=伸筋腱」でパッと決めにいくのか、それとも一度立ち止まるのか。——八柄くん、小野先生の資料に沿って、まず外側から並べてもらえますか。
八柄
はい。小野先生の資料でまず押さえられているのが、短橈側手根伸筋——ECRBの起始部です。テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の病態の主要因として挙げられていて、ECRBの起始は腱成分が中心、その前方は薄い関節包の裏打ちくらいしかない。
構造的に負担が集中しやすい作りだ、と整理されています。
ただ、資料を読み込んで唸ったのはここからで——“外側=ECRBだけ”では片づかないんです。ECRBやEDC(総指伸筋)の起始は、橈骨輪状靱帯——橈骨頭を取り巻く靱帯と密に結びついていて、前腕を回すと起始部にかかる長さ・張力が変わる、と資料では示されています。
だから、“ECRBだけ”を狙って終わりにはできないんです。輪状靱帯に付いてくる回外筋やEDCまで含めて、ECRBにかかっている牽引張力そのものを減らしにいく。
資料の治療の組み立ても、回外位でECRBと周辺をまとめて緩めてから段階的に回内位へ、という順番になっています。
橈骨の横断像。輪状靱帯(オレンジのリング)が橈骨を囲み、その外周に回外筋・ECRL・ECRB・EDC/EDM・ECUが並ぶ。橈骨がリングの中で回るため、前腕の回旋で起始部の長さ・張力が変わる。だから「外側=伸筋腱そのもの(ECRB)」だけでなく、輪状靱帯・関節包を介した張力も痛みの候補になる。
※登壇講師(小野志操先生)の配布資料(橈骨輪状靱帯の横断解剖)の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。
齊藤
なるほどね。私は逆に——内側の可能性も一度は当ててみたい派です。「外側が痛い」と言っていても、負担の主因が内側にあることは珍しくない。
内側だと共同腱、いわゆる回内屈筋群の起始ですね。円回内筋や浅指屈筋のあたり。小野先生の資料でも、内側の痛みは“肘だけ”では説明しきれない——肩甲帯の機能や上腕筋、前腕の屈筋群を介して、共同腱に牽引ストレスが集まる、という整理をされています。
これは実感としても本当にそのとおりで、内側を疑うときは、私はいったん肘から目を離して、肩甲帯や前腕全体を見にいきます。
内側の痛みには、①構造的な外反ストレス ②上腕筋への牽引ストレス ③共同腱への牽引ストレスが関与しうる。だから肘だけでなく、肩甲帯・上腕筋・前腕屈筋群(浅指屈筋・円回内筋)の“連鎖”を確認する。
※登壇講師(小野志操先生)の配布資料(「私が考える肘内側部痛治療」の趣旨)をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。原画の転載ではありません。
八柄
そこなんですよね。じゃあ“何が見えたらどちらに振れるか”を、観察ポイントとして並べてみます。
まずは起始部の触り分け——外側上顆の圧痛か、内側上顆・共同腱の圧痛か。次に誘発——手関節を背屈方向に抵抗して外側が出るのか、回内や外反方向で内側が出るのか。
そしてもう一つ、これは資料で教わった視点ですが——前腕を回内・回外させると、外側の痛みの出方が変わることがあります。ECRB・EDCの起始は輪状靱帯と結びつき、前腕の肢位で起始部の長さ・張力が変わるからです。回旋で症状が動くかどうかも、評価の手がかりのひとつになります。
大事なのは、これで“確定”はしないこと。あくまで、どの仮説の可能性が上がったか下がったか、を見るための材料です。
「外側か内側か」の前に、“どの組織か”を割る
・テニス肘(外側上顆炎)ではECRB(短橈側手根伸筋)の起始部が主要因として挙げられる。起始は腱成分が中心で、構造的に負担が集中しやすい。
・ECRB・EDCの起始は橈骨輪状靱帯と密接に結びつき、前腕の回旋(回内・回外)で起始部の長さ・張力が変化する。
・肘内側の共同腱は、肩甲帯〜上腕筋〜前腕屈筋群の連鎖のなかで牽引ストレスが集まりやすい。
齊藤
いいですね。私から明日の評価に足すなら、“一問”だけ。「どの肢位で・何をしたときに一番痛いか」を、患者さん自身の言葉で言ってもらうこと。
「雑巾を絞るとき」なら回内+握り込み、「重い荷物を持ち上げるとき」なら伸筋群の遠心性、というふうに、生活動作から責任組織のあたりが逆算できることが多いんです。触診の前に、この一問。ここ、私はけっこう好きなんですよ。
八柄
まとめると、今回のご相談——「テニス肘だと思って伸筋群をゆるめてるけど戻らない」へのお返事はこうなります。
小野先生の資料の整理を借りて——“なんとなく外側”を、一度「外側上顆のECRBと、そこに牽引張力をかけている輪状靱帯まわりか/それとも内側や近位の連鎖か」まで割ってみてください、と。
戻らないときほど、ゆるめる場所ではなく“狙う組織”がずれていることが多い。触る前に、どの組織かを言葉にする——それだけで次の一手が変わります。
きょうの視点(持ち帰り3つ)
- 「外側が痛い」で止めず、外側上顆のECRBか、内側・近位の連鎖かまで仮説を割る。
- 外側はECRBが主要因。ただし起始は輪状靱帯と結びつくため、ECRB単独ではなく、かかる牽引張力ごと見にいく。
- 内側を疑うときは肘から目を離し、肩甲帯・上腕筋・前腕屈筋の連鎖を確認する。
💡 ここまでの整理はすべて、明日 7/18(土) 開催・小野志操先生のセミナーの配布資料が下敷きです。「“どの組織か”を絞り込む触診」を、外側上顆炎・内側型野球肘・術後拘縮まで、ご本人の講義で聴けます。▶ 明日のセミナーを見る
齊藤
うん。ただ、大前提として——今日並べたのは“仮説の立て方”であって、文面や一般論だけで組織を断定できるものではありません。実際の患者さんは、画像や既往、競技や仕事の背景で絵がまるで変わる。最後は目の前の評価がすべてです。私たちも、いつもそこで一喜一憂してますしね。
八柄
そうですね。……ところで齊藤さん、白状のついでにもう一つ。ぶっちゃけ昔の齊藤さんって、「外側が痛い」って言われたら、どうしてたんですか?
齊藤
うっ……。正直に言うとね、若い頃は「はいはい外側ね」って、そのあたりをまとめてほぐして満足してた口だよ。“どの組織か”なんて、考えたこともなかった。
八柄
(苦笑)それ、今日の記事がいちばん「やっちゃダメ」って言ってる例そのものじゃないですか……。——まあ、その齊藤さんが変わったから、こうして二人で話せてるわけですけど。
皆さんの「これ、どの組織?」で迷うケースも、火曜にまた聞かせてください。二人でまた、仮説を並べます。
それだけで、評価の狙いが変わります。
極める!肘・前腕の理学療法
― 機能解剖に基づく評価と治療介入
今日、二人が予習した「“どの組織か”を絞る」の本編を、小野志操先生が徹底解説。外側上顆炎・内側型野球肘・術後拘縮の“戻らない”を、機能解剖と触診で読み解きます。
申込締切 7/18(土) 8:59 / 当日ご参加できなくても、録画でそのまま視聴できます
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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