なぜ腰痛はぶり返すのか?コアスタビリティからみた、腰痛と“土台”の関係|Medical Contents
2026.07.03
なぜ腰痛はぶり返すのか?コアスタビリティからみた、腰痛と“土台”の関係
「痛みは取れた。もう大丈夫」——なのに、なぜ腰痛はぶり返すのか
コアスタビリティで見る、腰痛と“土台”の関係
齊藤さん、腰痛の相談です。急性期の腰痛の方、炎症も落ち着いて、痛みもほぼ消えて、動きも戻った。ご本人も「もう大丈夫です!」って笑顔で卒業していく。
なのに——しばらくすると、けっこうな確率で戻ってくるんです。「またやっちゃって……」って。痛みは確かに取れてたのに。僕、そこで毎回モヤモヤするんです。何が足りなかったんだろうって。
(笑)あー、その「もう大丈夫です!」の笑顔ね。私も何度も見送ったよ。で、何度も再会した。同窓会かってくらい。
笑えないですよ……。でも本当にそうで。痛みが引いたら、僕も「よし治った」って運動療法を切り上げちゃうんです。だって痛くないんだから、もう問題ないだろうって。
いちおう、機序の話はできるんですよ。腰痛には、腹横筋や多裂筋みたいな深部の筋(ローカル筋)が関わっていて、これが体幹の“土台”を先回りして固める。腰痛があるとこの土台のはたらきが乱れる。……ここまでは、教科書どおり言えるんです。
言えるのに、「痛みが取れたら土台も戻ってる」って、なんとなく思い込んでました。
ねえ八柄くん、ひとつ聞いていい? その「痛みが取れた」ってさ——誰が判定してる? 患者さん? それとも八柄くんが、土台まで診て「戻った」って確認してる?
……患者さんの「痛くないです」を、そのまま信じてました。土台が戻ったかどうかは……正直、診てなかったです。痛みが指標のぜんぶになってた。
そこなんだよ。研究で言われているのは——初発の腰痛で急性期を過ぎて痛みが消えても、多裂筋は“自動では”戻らないってこと。痛みという症状と、土台の筋のはたらきは、別々のカーブで動くんだ。
痛みが早く消えても、土台はへこんだまま置いていかれる。そのまま卒業すると、土台が薄い状態で日常に戻るから、また崩れる。八柄くんの“同窓会”の正体は、それだと思うよ。
初発腰痛で急性期を過ぎ、痛みが消えても多裂筋は自動的には回復しない。回復させるには体幹スタビリティ運動が要る、と報告されている。痛みという“症状”と、土台という“機能”は別のカーブで動く——だから「痛くない=治った」で切り上げると、土台が薄いまま日常に戻ってしまう。
出典:Hides J. Multifidus Muscle Recovery Is Not Automatic After Resolution of Acute, First-Episode Low Back Pain. Spine 1996; 21(23): 2763-2769.
「痛みの消失」と「土台の回復」は同じではない
腰痛では、腹横筋や多裂筋といった深部の筋(ローカル筋)のはたらきが乱れるとされる。これらは体幹の土台を先回りして安定させる役割をもつ。急性期の痛みが引いても、こうした深部筋のはたらきは自動的には元に戻らないと報告されており、痛みという症状の改善と、土台となる筋機能の回復は、別々に評価する必要があると考えられている。だからこそ、痛みが取れたあとにも土台を回復させる運動療法が重要になる、と一般に説明される。
でも齊藤さん、土台が「薄いまま」って、具体的に体の中で何が起きてるんですか? 痛くないなら、筋肉もふつうに働いてるように見えるんですけど。
力そのものより、“タイミング”が問題なんだ。健康な体幹って、手足を動かすほんの少し前に、深部の筋が先回りして土台を固めてくれる。この「先回り」があるから、腰に負担が集中しない。
ところが腰痛があると、この先回りが遅れる。手足が動き出してから、あわてて固める。土台が間に合わないまま体が動くから、腰にしわ寄せがいく。しかも厄介なのは——痛みが引いても、この“遅れ”は残ることがあるんだ。
健康な体幹では、手足を動かす前に深部筋が先回りして土台を固める(先行性随伴性収縮)。腰痛を伴う人ではこの先回りの開始タイミングが遅れると報告されている。力の大小ではなく“間に合っているか”の問題——だから、痛みが取れても土台のタイミングが戻っているとは限らない。
出典:Hodges 1996(腰痛者における先行性随伴性収縮の遅延).
……あ。そういうことか。僕はずっと「痛みが消える=ゴール」だと思ってた。でも痛みが消えるのはスタートラインが見えただけで、土台の“先回り”を取り戻すのは、そこからの別作業なんだ。
だから運動療法は「痛みを取るためのもの」じゃなくて、痛みが取れてからが本番だったのか……。切り上げるタイミングが、まるっきり逆でした。
そう、そこがコアスタビリティの運動療法の勘どころ。土台を取り戻すには、いきなり重い運動じゃなくて、低い負荷で深部筋の“先回り”を再学習させるところから始める。
順番はこう。まず低負荷で、ローカル筋(腹横筋・多裂筋)が先回りして土台を作れることを確認する。それが安定してから、その上にグローバル筋(表層の大きな筋)を伴う動きを乗せていく。土台を先、動きを後。この順で、少しずつ日常の負荷に近づけていく。
薄くなった土台を取り戻すには、低負荷でローカル筋の“先回り”を再学習するところから。それが安定してからローカルを効かせたままグローバル筋を乗せる。どの段でも土台を先に固めるのは変わらず、負荷だけを少しずつ上げていく。痛みが取れた“あと”に、この階段を一段ずつ登り直すのが、再発を遠ざける運動療法。
痛みが取れてからの土台づくりが、再発予防の本体
腰痛の運動療法では、痛みの消失をもってゴールとせず、深部筋の先回りのはたらき(先行性随伴性収縮)が戻っているかを確認しながら進めることが重要とされる。回復は低負荷から段階的に、まずローカル筋で土台を作り、それが保てるようになってからグローバル筋を伴う動きへ漸増させる。痛みが取れた“あと”の継続こそが再発予防の本体になる。
現場の人が明日ひとつだけ持ち帰るなら——僕は「痛みが取れても、卒業させない」を選びます。
痛みが消えたのは、悪いことじゃなくて、むしろ土台づくりを始める合図。患者さんにも「痛みは取れましたね。ここからは戻さないための土台づくりをしましょう」って言える。理屈が分かってると、その一言に説得力が出るんですよね。「なんでまだ運動するの?」って顔をされなくなる。
きょうの視点(持ち帰り3つ)
- 「痛みの消失」と「土台の回復」は別カーブ:初発腰痛後、痛みが消えても多裂筋は自動では戻らない。症状と機能を分けて評価する。
- 問題は力より“タイミング”:腰痛では深部筋の先回り(先行性随伴性収縮)が遅れ、痛みが引いても残りうる。土台は「間に合っているか」で診る。
- 運動療法は痛みが取れてからが本番:低負荷でローカル筋の先回りを再学習→グローバル筋を乗せる。卒業の指標を痛みだけにしない。
いい落としどころ。……あのさ八柄くん、さっき私「同窓会かってくらい再会した」って言ったろ。あれ、患者さんが戻ってきてくれたんじゃないんだよね。私が“土台”を持たせずに送り出してただけ。
……あ。「また来ちゃって」って言うのは患者さんなのに、“また”を作ってたのはこっち側だった、と。
そういうこと。だからいちばんの再発予防はさ——「もう大丈夫です!」に、こっちが先に負けないこと。あの笑顔、いちばん手ごわい主訴かもしれないよ。
(苦笑)いちばん手ごわいのが、いちばん嬉しい笑顔って……。でも、その笑顔に油断せず「ここからが本番ですよ」と言える。それで“同窓会の常連”を一人でも減らすのが、今日いちばんの応用ですね。次の再会、少し寂しくしてみます。
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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