肘の可動域制限、その抵抗をどう解釈するか。組織の所見を、治療選択と再評価につなぐ
2026.10.24
深掘りセラピストマガジンVol.17|肘の可動域制限、その抵抗をどう解釈するか。組織の所見を、治療選択と再評価につなぐ

八柄
肘が伸びないとき、二頭筋か関節包か見当がつかないまま伸張を続けてしまうことがあります。
そこで10月20日(火)のLINEでは、肘の屈曲・伸展制限の治療で、いちばん判断が難しい場面を伺いました。回答してくださった皆さん、ありがとうございました。
最多は「屈曲を制限している組織を、関節包・脂肪体・皮膚から鑑別できない」(A・54%)でした。割合はボタン別のクリック数から計算し、下の図にまとめました。


八柄
Aは屈曲を制限する組織を挙げていましたが、外傷後の肘は伸展の不足のほうが大きく、戻すのも難しいとDávilaらの総説にあります。
そこで今回は伸展から考え、二頭筋と後方脂肪体に絞りました。4つの組織の扱いは、下の図のとおりです。

二頭筋は肢位で長さを変えて検査で先に外せ、後方脂肪体は伸展の通り道にあります。関節包は筋を外しても残る制限として考え、皮膚は手元の資料が一般の瘢痕ケアの説明にとどまるため外しました。
※Dávila・Johnston-Jones(2006)と Katoら(2025)をもとに当会作図(絵は本記事の他の図と同じAI作成の絵の一部。実在の患者画像ではありません)。
この記事の結論
肘の伸展制限は、仰臥位で肩と前腕の肢位を変えて二頭筋の攣縮か短縮かを先に分け、残る制限を関節包の候補にする。健常者の後方脂肪体は、伸展の前半で肘頭窩へ、後半で近位後方へ動く。
他動で伸ばしていれば、二頭筋は休んでいるのではないか

八柄
他動の伸展では、力を抜いてもらえば二頭筋は働いていない前提で進めていました。

齊藤
Pageら(2003)の筋電図が、その前提を崩している。外傷後に肘が硬くなった10人と対照10人で、肘の4筋を測った。
硬い肘では、自動の伸展中だけでなく、持続的な他動伸展の保持中も二頭筋の活動が高かった。
Dávilaら(2006)がまとめているところでは、前腕の遠位に約1.4kgの重りを足すと、二頭筋だけでなく上腕筋・腕橈骨筋まで活動が増えた。

八柄
重りで伸ばせば屈筋はゆるむと思っていましたが、硬い肘では重りが屈筋の活動を増やす側に働くのですね。

齊藤
三頭筋のほうは、Dávilaらの観察では抑制されていることが多く、患者は単独で使いにくい。
座位や立位で伸ばそうとすると、三頭筋の短縮性収縮ではなく、二頭筋の伸張性収縮と重力で肘が伸びている。
だから評価は仰臥位で行う。肩甲骨が安定し、二頭筋にかかる重力が除かれる。硬い肘の患者は、屈筋にかかる重力の引きを疼痛として訴えるからね。
そのうえで、肩の肢位を変えて二頭筋の長さそのものを変える。

許可された範囲で肩肢位を変え、肘伸展の角度・抵抗・症状を比較します。図は比較肢位の説明であり、角度の改善例や個人の診断結果ではありません。
※Dávilaら(2006)臨床解説を参考にAI作成。診断精度が検証されたテストではない。実在の患者画像ではありません。
まとめ|硬い肘では他動伸展の保持中も二頭筋が働き、重りは屈筋の活動を増やす。座位の伸展は二頭筋の伸張性収縮と重力で起きている。
明日からの臨床に活かすポイント肘伸展の評価は仰臥位で行う。重力を除くことで、同時収縮と防御的な緊張も減らし得る。
二頭筋の攣縮か短縮か、関節包か。肩と前腕で切り分ける

八柄
肩の肢位を変えるのは、二頭筋の長頭が肩をまたぐからですか。

齊藤
長頭は関節上結節、短頭は烏口突起から起こるので、二頭筋は肩と肘の両方をまたぐ。だから肘伸展を、肩中間位か軽度屈曲位と、肩過伸展位で測る。
二頭筋が適応的に短縮していれば、肩屈曲位のほうが肩過伸展位より肘伸展が大きいとDávilaらは書いている。

八柄
差が出れば二頭筋側とは言えますが、攣縮で硬いのか短縮しているのかは、それだけでは分かりません。

齊藤
そこでBankovの検査を使う。仰臥位で肘を最大伸展位にし、前腕を回外したまま二頭筋を触る。ここで硬く触れれば攣縮を示す。
次に、伸展を保ったまま前腕を他動で回内する。二頭筋は回内で抑制されてゆるむので、伸展がさらに増えれば攣縮。
増えないか、二頭筋が肘をまたいで引かれてかえって屈曲するなら短縮と読む。臨床検査なので、感度・特異度は求められていない。
そのうえで、手・手関節・肩を中間位にして筋をゆるめても肘の可動域が制限されたままなら、関節包の拘縮の可能性が残る。

回内で伸展が増えれば攣縮、増えずにかえって屈曲すれば短縮と読みます。感度・特異度が求められていない臨床検査です。
※Dávila・Johnston-Jones(2006)に記載の Bankov の検査をもとに当会作図(絵はAIで作成。実在の患者画像ではありません)。

八柄
攣縮と出たら、介入はどう組みますか。

齊藤
Dávilaらの解説では、伸展の伸張は耐えられる最大伸展位で前腕を回内し、重力を除いた肢位で温熱と合わせる。不快感はよいが疼痛は出さない。
一定の伸張を20秒、これを4〜5回というのが文献の推奨だ。同時収縮で制限された肘なら、PNFのhold–relaxやcontract–relaxも有効になり得る。

八柄
三頭筋のほうは、どう使わせますか。

齊藤
仰臥位で肩を90°屈曲し、肘を天井に向けた肢位がいちばん単独で使える。著者らが好むのは、最終域で5秒保持して15回、拮抗筋を同時収縮させないやり方だ。
早期に三頭筋を使わないと、後方関節包と上腕骨への瘢痕は避けられないとDávilaらは書く。
まとめ|肩の肢位差で二頭筋の長さを、回内で攣縮か短縮かを分け、筋をゆるめても残る制限を関節包の候補にする。
明日からの臨床に活かすポイント伸展の伸張は回内・重力除去の肢位で、一定の伸張を20秒×4〜5回(文献の推奨)。三頭筋は仰臥位・肩90°屈曲で単独収縮させる。
後方脂肪体は、伸展のどの局面でどちらへ動くのか

八柄
後方の脂肪体は、エコーで動きを見れば癒着の有無が言えますか。

齊藤
その前に、健常者でどう動くかを押さえておきたい。
Katoら(2025)がこれを測ったのは、投手の脂肪体の瘢痕や後方インピンジメントの報告はあるのに、伸展中の滑走は誰も調べていなかったからだ。
健常な大学生40人。座位で上肢をベッドに置き、肘90°屈曲から2秒かけて自分で完全伸展まで伸ばす動きを、肘の後ろからエコーで追った。

前半は肘頭窩の方向へ、後半は近位後方(上腕骨の方向)へ移動の向きが変わります。健常40人の自動伸展の結果を描いた模式で、患者の屈曲制限や癒着の診断には使いません。角度の範囲は原図 Fig.4 の表記です(Table 2 の平均の最大は184.4°)。
※出典:Kato T, et al. Evaluation of the Gliding of Posterior Elbow Fat Pad Using Ultrasonography and Particle Image Velocimetry. J Med Ultrasound. 2025;33(3):222-227. Fig.4 の肘の模式図2つを改変(日本語の札と方向の札を追加、配置を変更。グラフと方位の円は使っていない)。原図・この改変図とも CC BY-NC-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja)。

八柄
それで、脂肪体はどちらへ動いたのですか。

齊藤
一方向ではなかった。伸展の前半は肘頭窩へ滑り込み、後半は向きを変えて、三頭筋と上腕骨のあいだを近位後方へ動く。滑りの速さは前半のうちに増していく。
境目の50%は、2秒の運動時間の半分という時間の区切りで、肘45°のことではない。

八柄
前半と後半で、なぜ向きが変わるのでしょう。

齊藤
Katoらの考察では、前半は三頭筋内側頭の深いところが脂肪体を肘頭窩へ押し込み、速さが増すのは肘頭が肘頭窩に入っていく骨の動きに押されるためだ。
後半は三頭筋の収縮で脂肪体が近位後方へ引き出され、伸展でできるすき間を埋める、という説明だ。

八柄
臨床でエコーを当てるなら、自動伸展の前半と後半で向きが変わるのを、健常の基準として見ればよいのですね。

齊藤
そのとおり。ただし速さは被験者次第でぶれる(原著の限界)ので、同じ肢位・同じ速さでそろえて見る。
健常者の研究で、測り方の信頼性も十分とはいえないと、著者ら自身が書いている。
先ほどの三頭筋の早期使用と後方の瘢痕、ここでの三頭筋が脂肪体を引き出す動きは、同じ後方の組織の話だが、研究で直接つながれてはいない。
まとめ|健常者の後方脂肪体は、自動伸展の前半で肘頭窩へ、後半で近位後方へ滑走する。患者の癒着や手技の効果は示していない。
明日からの臨床に活かすポイント後方脂肪体のエコーでは、同じ肢位・同じ速さの自動伸展で、前半と後半の向きの変わりを健常の基準にする。

横軸は運動時間の正規化で、50%は肘45°という意味ではありません。健常40人の平均±SD。縦軸は原著の座標での方向角で、滑走の量ではありません。患者の屈曲制限や癒着の診断には使いません。
※Katoら(2025巻号/2024先行公開)Table 2の数値から当会作図(原著の図は不使用)。0%と100%も表のとおり。
きょうの視点(持ち帰り3つ)
- 他動伸展でも二頭筋は働く:硬い肘では保持中も働く。評価は仰臥位で
- 肩と前腕で切り分ける:肩の肢位の差で長さを、回内で攣縮か短縮かを分ける
- 脂肪体は前半で肘頭窩へ、後半で近位後方へ:健常者の動きで、患者の癒着の診断には使わない

齊藤
二頭筋の攣縮か短縮かを仰臥位で切り分けてから、関節包を疑う。この順番を変えないことだね。

八柄
どちらも、肘の機能解剖を知っていて初めて検査に使えますね。まず肘の機能解剖から見直してみます。

齊藤
下の講座は、制限因子を見極める評価の順序と治療の組み立てを扱う。ただし、今日紹介した文献や検査が、講座でそのまま扱われるわけではない。

八柄
それでも、機能解剖から評価と治療を組み立てたい人には合いそうですね。

齊藤
そうだね。機能解剖に基づく評価と治療の戦略を学びたい人には、おすすめできる。

八柄
今日は、伸びない肘を、二頭筋と後方脂肪体の2つから見直しました。明日、伸びない肘を前にしたら、まず仰臥位で肩と前腕の肢位を変えてみる。その一歩のきっかけになればうれしいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
齊藤
八柄
肘関節の屈曲・伸展制限に対する機能解剖学的評価と治療~関節特性から可動域の制限因子を見極める~
肘の機能解剖を見直したい方へ。山本昌樹先生の講座では、肘関節の解剖学的・機能解剖学的特徴から屈曲・伸展制限が生じる仕組みと、制限因子を見極める評価の順序を扱います。
この講座で学ぶこと
✅ 肘関節の解剖学的・機能解剖学的特徴から、屈曲・伸展制限が生じる仕組みを学ぶ
✅ 制限因子を見極める評価の順序を学ぶ
✅ 異所性骨化などのリスクを回避しながら可動域を改善する、治療の組み立てを学ぶ
✅ 洗顔・摂食・リーチなど、生活動作から逆算した目標設定を学ぶ
本稿は下記の筋電図の研究・臨床解説・超音波の原著を参考に構成しました。原著の主張と著者の考察・経験は本文で分けて書いています。症例や患者画像は使用していません。
本号の背景にある文献(3本)を開く
- Page C, Backus SI, Lenhoff MW. Electromyographic activity in stiff and normal elbows during elbow flexion and extension. J Hand Ther. 2003;16:5–11. doi:10.1016/s0894-1130(03)80018-2.(小規模筋電図研究) 原文を確認
- Dávila SA, Johnston-Jones K. Managing the Stiff Elbow: Operative, Nonoperative, and Postoperative Techniques. J Hand Ther. 2006;19:268–281. doi:10.1197/j.jht.2006.02.017.(臨床解説。肢位比較の診断精度を証明した研究ではない) 原文を確認
- Kato T, et al. Evaluation of the Gliding of Posterior Elbow Fat Pad Using Ultrasonography and Particle Image Velocimetry. J Med Ultrasound. 2025;33:222–227. Online 2024 Dec 18. doi:10.4103/jmu.jmu_19_24.(健常者の動態研究) 原文を確認
監修 セラフォー齊藤
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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