座位では保てる体幹が、立つ・歩くと崩れる。崩れ方を手で確かめ、介助を減らす
2026.10.04
深掘りセラピストマガジンVol.14|座位では保てる体幹が、立つ・歩くと崩れる。崩れ方を手で確かめ、介助を減らす
「立つ・歩く動作に移ると崩れる」。火曜のアンケートで、いちばん多かった体幹の悩みです。
本稿では、歩行で体幹が崩れる理由を整理したうえで、セラピストが手で行う評価と治療を中心に紹介します。
当会セミナーの講義内容と、文末の文献をもとに編集部が構成しました。図解はすべて当会で新しく作図しています。
いただいた声から

八柄
火曜のLINEで「体幹へのアプローチで、いちばん悩んでしまう場面は?」に答えてくださったみなさん、ありがとうございました。
いちばん多かったのは「立つ・歩く動作に移ると崩れる」でした。今日はこの悩みに絞ります。次に多かった「効果を実感してもらえず、運動療法が継続しない」は、別の号で取り上げる予定です。
※火曜のLINE(2026年9月29日配信)で回答ボタンがタップされた数をもとに、当会で作図しました。

八柄
僕の担当の方も、座位保持はできるのに、平行棒内で歩き出すと体幹が麻痺側へ崩れます。座位での運動療法を増やしても、歩行は変わらないんです。

齊藤
分かるよ。うちのリビングもね、ソファから眺めると片付いて見えるんだ。

八柄
座位で保てているなら、体幹の問題ではないのかな、とも考えてしまって。

齊藤
立つとローテーブルの下の段が見えるんだけどね。
八柄くん、座位で保てるのは、体幹に問題が無いからだと思う?
歩くと崩れる理由

八柄
違うんですか。座位の評価では、特に問題が見つからないんです。

齊藤
座位でも、予測的姿勢制御が低下していることはあるよ。片麻痺の方では、座位で上肢や股関節を屈曲する課題でも、一部の体幹筋で活動の開始が遅れると報告されている。
ただ、座位は重心が低く支持基底面も広いから、多少遅れても崩れとして表に出にくいんだ。

座位と立位では、重心の高さと支持基底面の広さが違う。立位では、麻痺側で重心を動かせる範囲(安定性限界)も狭くなる。

八柄
歩行になると、体幹には何が求められるんでしょう。

齊藤
一歩ごとに片脚で支持することだね。遊脚側では腹斜筋・腹横筋が求心性に働いて、遊脚側の骨盤を引き上げる。
左右の腸骨稜を結ぶ線で見ると、支持側の骨盤は相対的に下がり、支持側の同じ筋は遠心性に働く。
支持側の腹部が働かないと、骨盤が側方へ流れて、上肢や頭部で代償する。

左右の腹部の収縮様式は逆になる。両肩は水平のまま。図は色の付いた脚が遊脚の場面。
※当会セミナーの講義資料の「効率の良い片脚立位」をもとに、当会で新規作図。

齊藤
歩行中の体幹の動きを健常者と比べた16研究のレビューでも、片麻痺の方は側方の動揺と左右の非対称性が大きかった。観察研究なので、原因までは示していない。

八柄
腹部が働きにくい方は、何で体幹を起こしているんでしょうか。

齊藤
随意的な体幹の屈曲・伸展課題で、麻痺側の腹直筋は活動が低く開始も遅れ、腰部の脊柱起立筋は両側とも保たれていた、という報告がある。
ここからは研究ではなく臨床での見方だけど、体幹を起こす方法は、脊柱起立筋で背側から、僧帽筋・広背筋で肩甲帯から、腹圧を上げて前から、の3つに分けて見ている。腹部が働きにくいと、3つ目が使いにくくなる。

腹圧の上昇が足りないと、脊柱起立筋か、僧帽筋・広背筋で起こす形が増える。
※当会セミナーの講義資料をもとに、当会で新規作図。

八柄
片脚支持で左右の腹部を別々に働かせることも、腹圧で体幹を起こすことも、座位ではあまり求められないから、崩れが見えなかったんですね。
評価:手と目で確かめる

八柄
評価では、まずどこから見ますか。

齊藤
麻痺側の立脚後期を、骨盤から順に見る。崩れが下肢から始まっていることもあるからね。
片脚立位も、保持時間を測るだけで終えない。股関節と膝を90度まで屈曲してもらって、骨盤が側方へ流れるかを見る。
挙げた脚を後ろへ引いたり、支持脚に押しつけたりするなら、分離運動が難しいか、支持性が低いと読む。手すりなど固定された支えのそばで、すぐ介助できる位置で行う。

骨盤から順に、平衡、膝の筋の切り換え、荷重しながらの背屈、上肢と頸部の代償を確かめる。
※当会セミナーの講義資料の「立脚後期における評価」をもとに、当会で新規作図。

八柄
肩甲帯で体幹を引き上げている方は、手で見分けられますか。

齊藤
上肢を前方から屈曲方向へ誘導する。途中で急に重くなり、さらに挙げると腰椎の前弯が強まるなら、重くなった所で止める。
肩甲帯で引き上げる方法に頼っていて、腹圧が上がりきっていない、と読む。これも見方の一つだね。

重くなる所で止め、腰椎の前弯が強まらないかを見る。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。
治療:ハンドリングで整え、介助を減らしていく

齊藤
治療では、まずハンドリングで姿勢を整える。自由度が高いままだと、習慣的な動き方が出る。手で自由度を制限して、狙った動きが出てきたら介助を減らす。

八柄
荷重を移しても支持側の骨盤が下がらない方には、どうしますか。

齊藤
支持側の体幹を伸張しようとするだけでなく、遊脚側の腹斜筋・腹横筋の求心性収縮を促す。遊脚側が上がれば、支持側は下がりやすい。
両脚立位での荷重移動から始める。後ろから上部体幹の重さを手で少し取り、肩甲帯で引き上げさせずに、支持側の骨盤が下がる所を少しずつ探る。肩が挙上する、頭部が傾くなら難易度を下げる。患者さんの反応を見ながら進める。

片脚支持へ移る前の、両脚での荷重移動の段階。下がる所は一度で決めず、肩のラインを見ながら少しずつ探る。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。

八柄
足部から崩れる方には、どうしますか。

齊藤
皮膚と筋を緩めながら、ゆっくり触れる。速く動かすと反射的に筋が収縮するからね。
ある症例では、踵の接地、内反を伴わない底屈と第一中足骨への荷重、ショパール関節の可動性、外側アーチの順に介入していた。背屈は、距骨を母指で押し込んでから促す。押し込まないと足関節に疼痛が出やすい。疼痛が出たら中止する。
抵抗感が減って軽くなったら、「ついてきて」と声をかけて自動運動に切り換える。

踵の接地から始めて、底屈と第一中足骨への荷重、外側アーチへと順に整える。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。

齊藤
足部を整えたら、立ち上がりで支持脚をつくる。まず、大腿直筋が上前腸骨棘と膝蓋骨を結ぶ線上にあるかを触診で確かめる。
片手で大腿直筋を引き出しながら踵の方向へ圧を加え、もう一方の手で側腹部の腹斜筋を把持して骨盤帯を起こす。クローヌスが出ない範囲で行う。
見るのは、骨盤が前傾し、腰椎と胸椎が伸展して重心が高くなるか、手で引いて立とうとしないか。立てたら、痛みや恐怖感が無いかをご本人に確かめる。

足部を整えてから立ち上がりへ。誘導は、クローヌスが出ない範囲で。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。

八柄
腹圧が上がりきっていない方には、手をどこに置きますか。

齊藤
選択的な運動が難しい急性期の方なら、息を吐き切ったところで下部肋骨を軽く押さえる。呼気終末には腹横筋が収縮すると言われているからね。
他の部位に力が入らないかを見ながら、押さえる手を少しずつ緩めていく。息は止めさせない。

手をゆるめるほど、難易度が上がる。息は止めずに行う。姿勢は一例。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。

八柄
こうした治療に、エビデンスはありますか。

齊藤
個々の手技ではなく、体幹の運動療法全体の研究ならある。
亜急性期の小規模なRCTで、体幹の運動療法を加えた群は、歩行中の体幹の動きと歩行速度が改善した。2023年のCochraneレビューでも、歩行能力は改善の方向だけど、確実性は低い。

八柄
どちらも運動療法全体の研究で、手技の効果を示したものではないんですね。

齊藤
そう。だから、介助を減らしても狙った動きが続くかを毎回確かめる。手のひら全体で支えていたら指先に、圧をかけていたら弱くする。例えば、座位で麻痺側の膝に非麻痺側の下肢を載せる課題なら、介助して10秒保てたら減らす。
難易度が合っているかは、図の5点で見る。

体が動いて受け止めるなら、難易度は合っている。固まるなら、支持基底面を広げるなどして難易度を下げる。姿勢は一例。
※当会セミナーの講義資料と講義内容をもとに、当会で新規作図。

齊藤
中止の目安も決めておく。疼痛が出たら、その場でやめる。立位や歩行の練習は、手すりなど固定された支えのそばで、すぐ介助できる位置で見守りながら行う。疲労で動きが乱れてきたら、その日は終える。
急な強い頭痛、ろれつの回りにくさ、新たな脱力やしびれ、胸痛、強い息切れがあれば中止し、施設の緊急時の手順に従って、すぐに医師へ連絡する。
- 麻痺側の立脚後期を、骨盤から順に、手と目で確かめる
- 支持側へ荷重を移す場面で上部体幹の重さを手で取り、支持側の骨盤が下がる所を少しずつ探る
- 骨盤の側方への流れが減ったら、手のひらから指先へ、圧を弱めて介助を減らし、狙った動きが続くかを見る

八柄
どこから始めるかは、感覚、関節可動域、疼痛、高次脳機能も含めて、その方の状態で選びます。次の患者さんでは、手のひらの介助を指先に変えられるかから試します。

齊藤
……よし。私も今日から、リビングの観葉植物の支柱を1本減らすよ。10日倒れなかったら、もう1本抜く。

八柄
(苦笑)植物は、支柱を抜いても動き方を覚えてくれませんよ。
崩れ方を手で確かめ、ハンドリングで姿勢を整えて、改善したら介助を減らし、ご本人が自分で動ける範囲を広げる、ということですね。
齊藤
八柄編集部注記
本稿は、体幹へのアプローチの悩みに、脳卒中片麻痺の方を担当する場面を例にして答えたものです。見立てと介入の一例で、崩れの原因や病態を確定するものではありません。
紹介した研究は、対象者や課題が限られています。本文では、その都度対象と課題を書いています。
やめる目安の記述は、一般的な安全管理の考え方をもとに編集部が加えました。実施にあたっては、主治医の指示と施設の決まりに従ってください。
本号の背景にある文献
- Dickstein R, Shefi S, Marcovitz E, Villa Y. Anticipatory postural adjustment in selected trunk muscles in post stroke hemiparetic patients. Arch Phys Med Rehabil. 2004;85(2):261-267. PMID: 14966711.(座位での上肢・股関節の屈曲課題で、体幹の筋の活動の始まりを調べた=第2節)
- Dickstein R, Shefi S, Marcovitz E, Villa Y. Electromyographic activity of voluntarily activated trunk flexor and extensor muscles in post-stroke hemiparetic subjects. Clin Neurophysiol. 2004;115(4):790-796. PMID: 15003758.(随意の体幹屈曲・伸展で、麻痺側の腹直筋と広背筋の活動が低下し遅れた。腰部の脊柱起立筋は両側とも保たれていた=第2節)
- Van Criekinge T, Saeys W, Hallemans A, et al. Trunk biomechanics during hemiplegic gait after stroke: A systematic review. Gait Posture. 2017;54:133-143. PMID: 28288334.(歩行中の体幹の動きを健常者と比べた16研究のシステマティックレビュー。側方の揺れと非対称が大きかった。観察研究で、原因は示していない=第2節)
- Van Criekinge T, Hallemans A, Herssens N, et al. SWEAT2 Study: Effectiveness of Trunk Training on Gait and Trunk Kinematics After Stroke: A Randomized Controlled Trial. Phys Ther. 2020;100(9):1568-1581. PMID: 32542356.(亜急性期の小規模なランダム化比較試験。体幹の練習を加えた群で、歩行中の体幹の動きと歩行速度が改善し、下肢の運動学には差が無かった=第4節)
- Thijs L, Voets E, Denissen S, et al. Trunk training following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2023;3:CD013712. PMID: 36864008.(体幹の練習のCochraneレビュー。歩行能力は改善の方向で、確実性は低い=第4節)
このほか、当会セミナーの講義資料と講義内容を参考にしました。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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