可動域と筋力が改善しても痛みが残る股関節痛、どう解釈する?〜骨盤を含めた複合運動で評価する〜

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2026.09.11

深掘りセラピストマガジンVol.11|可動域と筋力が改善しても痛みが残る股関節痛、どう解釈する?〜骨盤を含めた複合運動で評価する〜

深掘りセラピストマガジン|Vol.11
対談:セラフォー齊藤 × セラフォー八柄

火曜のLINEに届いた声(自由記述・空白と句読点を整えています)

「骨盤のアライメント不良や体幹筋の筋力低下が、どのように影響するのか?」

本稿では、体幹・骨盤の関与を考える観察の視点を扱います。

当会セミナーの講義内容と、文末の文献をもとに編集部が構成しました。

1

今週いただいた声と、この記事が答える場所

yagara(wonder)

八柄

齊藤さん、今日もよろしくお願いします。火曜のLINEに答えてくださったみなさん、ありがとうございました。今週の設問は「股関節が痛い症例で、いちばん難渋するのはどの場面ですか」。

確認できた回答は、「体幹や骨盤の関与を疑うが、そこからどう診るかが決まらない」が15件。「股関節の痛みが、どの組織から出ているのかを絞り込めない」が9件でした。自由記述は4件です。

冒頭の声は、まさに僕の状態です。「体幹が弱い」「骨盤が前傾している」とは言えます。でも、股関節の痛みとの関係は説明できていません。そのまま体幹の筋力訓練を行っています。

2

個別の可動域に、複合運動の観察を加える

saito(ask)

齊藤

体幹や骨盤の関与も、仮説の1つになるね。問題は、関与の中身を「筋力が弱い」の1つに決めてしまうと、次に何を診るかが決まらないことだ。

先に1つ聞かせてほしい。可動域も筋力も改善したのに痛みが変わらない症例で、可動域は何をどう測っていた

yagara(base)

八柄

背臥位で、屈曲・内旋・外転を1つずつです。改善は角度で判断して、筋力はMMTで見ています。

角度も筋力も改善したのに、痛みが変わりませんでした。そこで「残りは体幹だ」と決めて、プランクなどを追加していました。

saito(base)

齊藤

可動域と筋力を測るのは、評価の一部だよ。改善後も痛みが残る理由を、体幹だけに決めない。

ただ、1つずつ測った角度だけでは、患者さんの痛みや機能を説明しきれない例がある

股関節唇損傷の症例データで、屈曲や内旋の可動域制限の大きさと、患者報告アウトカムに相関を認めなかった解析がある。

別の解析では、FABERと骨盤の後傾と外転を説明変数にした式が、患者立脚型の臨床スコアと関連していた。それらを改善すればスコアが上がる、とまでは言えない。対象や条件を含めて、一般化には限界がある。

それでも、1つずつの可動域に加えて、複合運動にも目を向ける示唆として受け取っている。今日はここを中心に話すよ。

3

骨盤の傾きと、いつ動き出すか

yagara(wonder)

八柄

なぜ骨盤の後傾なんでしょうか。「骨盤の過前傾がよくない」という話は聞きますが、股関節の前面痛とどう関係するのかが、僕の中で整理できていません。

saito(base)

齊藤

手がかりは、骨盤の傾きで、骨どうしが接触するまでの可動域が変わることだ。骨盤が前傾すると、臼蓋の前縁が骨頭に被さる向きになり、屈曲や内旋で前方が早く当たる、という考え方がある。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)症例のCTから骨のモデルを作り、それを計算した研究がある。

そのモデルで、骨盤を10度後傾させると屈曲90度での内旋が約5度増え、10度前傾させると約6度減った。

これは骨のモデル上の計算で、症状や軟部組織の負荷を測った研究ではない。この結果を臨床にそのまま当てはめることはできないから、実際の症状への影響は患者さんごとに確かめる。

図解1 | 骨盤の傾きで、股関節前方の余地が変わる

骨頭・頸部・骨幹を描き分けた股関節の矢状面模式図。右が前方(腹側)、左が後方(背側)、上が頭側。骨盤前傾位と骨盤後傾位を上下に並べています。骨盤前傾位では臼蓋の前縁が下がり、臼蓋の前縁と骨頭頸部移行部が早く当たる。骨盤後傾位では前縁が持ち上がり、骨接触までの可動域が大きい。接触位置は骨の形や肢位で変わる。骨盤の後傾を全員の目標にはしない。後傾の可動性を見るときは腰椎・胸椎の動きも合わせて観察する。FAI症例のCTを用いた骨モデル研究を参考にした模式図で、痛みや軟部組織の負荷を測った結果ではない

可動域を比較するときは、骨盤の位置も合わせて記録します。前傾位では臼蓋の前縁が下がり、前縁と骨頭頸部移行部が早く当たります。後傾位では前縁が持ち上がり、前方に余地ができます。骨のモデル上で骨接触までの可動域を計算した研究にもとづく模式図です。接触する位置は骨の形や肢位で変わります。実際の症状への影響は個別に確かめます。骨盤の後傾を全員の目標にする図ではありません。

※文末のRoss(2014)の骨モデル研究を参考に、当メディアで模式図化(新規作図)。矢状面の2次元の模式で、3次元の内旋や個々の骨の形・大きさは再現していません。原著は3次元モデルで大腿骨近位部と臼蓋縁の接触を扱っており、この図の特定の接触点を保証するものではありません。

yagara(wonder)

八柄

骨盤の後傾というと、深く曲げた最後のほうで出てくる動き、という印象がありました。前半は股関節だけが動いていて、その先で骨盤がついてくる、という感覚です。

saito(base)

齊藤

そこが分かれ目でね。背臥位で股関節を屈曲させたときの、骨盤の動きを計測した研究がある。骨盤の回旋は、屈曲の最初の8度以内に始まっていた。全体では、屈曲量の4分の1から3分の1を骨盤の回旋が占めていた。

若年成人では、平均して股関節3度に腰椎1度の比率で動くという報告もある。骨盤や腰椎は早い段階から一緒に動いていて、後半だけ動くわけではない

研究条件下の結果だから、患者さんごとの開始角度や割合までは言えない。ただ、腰椎の寄与を見落とすと、股関節の屈曲角度を実際より大きく見積もることになる。

図解2 | 骨盤は、屈曲の早い段階から動いている

背臥位の股関節屈曲を調べた研究の所見。骨盤の回旋は屈曲8度以内に始まっていた。8度を全員の開始点として示す図ではない。研究での骨盤回旋の寄与は屈曲量の4分の1から3分の1で、患者ごとの基準や0度から90度の内訳ではない。一定の角度で股関節と骨盤の担当が入れ替わるとは考えない

骨盤の回旋が早くから加わることと、全体への寄与の割合は、別の情報です。目盛りは角度を読むためのもので、運動の量を示す図ではありません。研究では、骨盤の回旋は屈曲8°以内に始まっていました。患者ごとの判定基準ではありません。

※Bohannonら(1985)の報告をもとに、当メディアで概念図化(新規作図)。股関節と腰椎の比(Tullyら 2002)は本文と文末の参考文献に置きました。

4

体幹の運動を、筋力・可動性・協調性から考える

yagara(wonder)

八柄

可動域も筋力も、股関節の中だけで完結させていました。骨盤が後傾できるかどうかは、股関節の外の条件なんですね。

では、冒頭の声の後半です。体幹筋の筋力低下はどう関係するんでしょうか。体幹の筋力訓練で改善する症例は実際にいます。あれは体幹を鍛えたから改善したのではないんですか。

saito(base)

齊藤

体幹を含む能動的な運動療法にはエビデンスがある。対象は、長期の内転筋関連鼠径部痛があるアスリートだ。

8〜12週の能動的訓練と、能動的訓練を含まない理学療法を比較した。治療終了4か月後、痛みなく競技復帰した人は能動的訓練群で多かった。

ただし、体幹運動単独の効果や、改善の機序を示した試験ではない。「体幹を鍛えたから改善した」とは、その試験だけでは言えない。一般の股関節痛にそのまま当てはめることもできない。

以下は、講義の臨床的解釈をもとに編集部が整理した観察項目です。

この試験は、これらの観察項目の有用性を検証したものではありません。

saito(base)

齊藤

評価では、筋力に加え、骨盤・脊椎の可動性と動作中の協調性も観察する。筋力低下だけを原因と決めない。評価項目は図にまとめたよ。

図解3 | 体幹・骨盤の関与を考えるときの評価項目

体幹・骨盤の関与を考えるときの評価項目を縦に3つ並べた図。筋力・負荷への耐性、脊椎・骨盤の可動性、動作中の協調性。番号や矢印はなく、順序や優先度を表す図ではない。症状と活動上の困難と合わせて評価する。これらの関係や改善をもたらす機序はこの図では確定しない

講義資料で示された臨床的な視点を、評価項目として並べました。改善がこの順序で起こることを示した図ではありません。

※講義資料に示された考え方(資料に「私の意見」と明記)をふまえ、当メディアで評価項目として整理(新規作図)。スライドの画像・原図は使用していません。

5

どう診るか ─ 順序

yagara(wonder)

八柄

ここまでで、なぜ骨盤の後傾なのかは分かりました。15件の方が難渋しているのは、その先の「どう診るか」だと思います。明日、何をどの順で見ればいいですか。

saito(base)

齊藤

その前に確かめることがある。外傷後の強い痛み、歩けない・荷重できない、突然の強い痛み、熱感や腫脹、発熱。どれかがあれば、評価を進めずに医師へ報告する。

腰や下肢の症状に、新たな排尿障害・排便障害・会陰部の感覚低下のいずれかを伴うときは、評価を中止し、直ちに救急受診へ。

これらは受診を考える所見の例で、該当しなくても安全とは限らない。病歴と所見から安全を確認できる範囲だけを観察する。

順序は3段だ。

  1. 骨盤の動きを見ながら、症状が出る位置と可動範囲を確かめる。安全に行える範囲で、背臥位の股関節屈曲を観察する。自動か他動か、膝の肢位、開始時の骨盤の位置を記録し、再評価では条件をそろえる。
  2. 骨盤後傾と腰椎の動き方を、座位や四つ這いで観察する。
  3. 安全に可能なら、四つ這いで動作中の協調性を観察する。対側の手足を動かし、腰椎・骨盤の動きと症状を見る。四つ這いは一例で、原因を決める検査ではないよ。

yagara(base)

八柄

1段目の「骨盤の動きを見ながら」というのは、手を骨盤に当てて確かめるということですか。

saito(base)

齊藤

手を当てて見ることはある。ただ、当て方に注意がいる。片手を骨盤に当てるのは、動きの観察を補う程度にする。固定して動きを止めない。

手で感じた動きは、定性的な観察として扱う。症状の部位と、可動域のどこで出たか、骨盤と腰椎の動き方を記録する。強い痛みや硬い抵抗は越えない。順に図にしたよ。

図解4 | 診る順序

股関節痛を診る順序の流れ図。観察の一例であり、原因組織を絞る評価手順ではない。中止・相談の所見(外傷後の強い痛み・荷重できない・突然の強い痛み・熱感や腫脹・発熱、新たな排尿障害・排便障害・会陰部の感覚低下)は、この図の上の枠に本文の文字で示している。図の流れは、病歴・所見から安全に観察できる範囲に限るという条件から始まり、1骨盤の動きを見ながら屈曲し症状の部位・出現位置と骨盤の動き方を記録する(強い痛み・硬い抵抗は越えない)、2骨盤後傾と腰椎の動き方を座位・四つ這いで観察する、3安全に可能なら四つ這いで動作中の協調性を観察する(一例であり検査ではない)、最後に観察を統合して次に確かめる仮説を立て、問診・診断・ほかの所見と照合し、合わなければ追加評価か医師へ、介入するなら適応と安全を確認して直後とその後を再評価する。救急・相談の所見から観察へ戻る矢印はない。原因組織や介入適応はこの観察だけでは決めない

※講義の治療課題などを参考に、編集部が観察例として構成しました(新規作図)。

saito(base)

齊藤

3段目の四つ這いは、動作中の協調性を見る一例だ。安全に四つ這いがとれる場合に行う。床への移動と起き上がりが安全にできるか、手関節や腰部に痛みがないかは先に確かめる。

腰椎・骨盤の動きと症状を記録する。その動きだけで、原因や異常を決めない

図解5 | 四つ這いで対側の手足を動かす(協調性の観察)

四つ這いから対側の手と足を伸ばした姿勢のイラスト。安全に可能な範囲で対側の手足を動かし、腰椎・骨盤の動きと症状を観察する。一直線を目標に無理に上げず、痛みやふらつきが出たら中止する。床への移動と起き上がり、手関節や腰部の痛みを先に確かめる。協調性を見る一例で、原因や異常を決める検査ではない

動作中の協調性を見る一例です。順序の3段目にあたり、安全に四つ這いがとれる場合に行います。床への移動と起き上がり、手関節や腰部の痛みを先に確認します。腰椎・骨盤の動きと症状を記録し、その動きだけで原因や異常を決めません。安全に姿勢を保てる範囲で行います。

※講義資料の写真を参考に、当メディアで描き起こしました(新規作図)。

yagara(base)

八柄

整理させてください。まず病歴とレッドフラッグを確認する。安全に可能な範囲で、条件をそろえた屈曲での症状と骨盤の動き、骨盤と脊椎の可動性、動作中の協調性を観察する。

ほかの所見と合わせて、決められなければ追加評価か医師へ。介入するなら適応を確認して、直後とその後を再評価する。角度だけで判断するのをやめて、動き方を症状と一緒に記録する。明日からそこを変えられます。

6

痛む動作の局面を、追加評価の手がかりにする

yagara(wonder)

八柄

ここで、9件あった「股関節の痛みが、どの組織から出ているのかを絞り込めない」に移ります。自由記述にも、こんな声が2つありました。

自由記述(空白と句読点を整えています)

「疼痛部位を問診で確認しても解剖がわからず特定しきれない」

「鼠蹊部痛の原因を絞り込むための評価が分かりません。」

問診で場所を聞き、誘発テストも行っている。それでも組織まで特定できない、という状況だと思います。僕も同じです。

saito(base)

齊藤

まず、誘発テストの役割を確認しておこう。

屈曲・内転・内旋で症状を誘発するFADIRテストがある。Reimanらの系統的レビューで統合された研究では、感度は高く、特異度は低かった。ただし、対象や参照基準に偏りがあり、個々の患者にそのまま当てはめることはできない。

このレビューでは、単独で診断を確定する精度には限界があった。感度の推定にも不確かさが残り、陰性でも疾患を一律には除外できない。

つまり症状は誘発できるが、要因となる組織は同定できない。テストで決まらないのは腕の問題ではない。テストの役割が、そこまでだからだよ。

yagara(wonder)

八柄

テストで組織まで決まらないとすると、そこから先は何を手がかりにするんですか。

saito(base)

齊藤

そこで、患者さんに2つ聞く。

  1. どこが痛いか。指で示してもらう。
  2. どの動作の、どの局面で痛いか。

深く曲げる・捻る・キック・方向転換など、痛む動作と局面を聞く。

ここでいう圧縮は組織を押し縮める向きの負荷、伸長は引き伸ばす向きの負荷を指す。

動作名から、圧縮負荷か伸長負荷かを割り当てない。

痛む場所と局面を記録し、病歴や身体所見と照合する。

一致しない所見があれば、追加評価や医師への相談を考える。

yagara(aha)

八柄

圧縮か伸長かの区別だけで、組織の候補まで絞れるということですか。

saito(base)

齊藤

いや、圧縮と伸長は、負荷を考える視点の例だよ。鼠径部痛の分類でも、組織を決める基準でもない。国際的な臨床分類(Doha agreement)とは異なる視点だ。

解剖を全部覚えてから絞るのではない。問診から仮説を立てて、必要な追加評価を考える。

次の評価へ渡すために、痛む場所・動作の局面・負荷量・発症経過を記録しておく。

図解6 | FADIRの肢位の例と、競技動作のイメージ

左はFADIRの肢位の例で、股関節の屈曲・内転・内旋。検査の操作手順を示す図ではない。誘発できても組織は同定できない。右は競技動作のイメージで、片脚で支える一場面。キックや方向転換など、痛む動作と局面を聞く。疼痛源や負荷の種類はこの図では確定できず、痛む位置と局面を追加評価の手がかりにする。安全上の懸念があれば誘発評価を保留し、強い痛み・硬い抵抗を越えて動かさない

左はFADIRの肢位の例、右は競技動作のイメージです。左の図は検査の操作手順を示すものではありません。テストは症状を誘発できますが、要因となる組織は同定できません。競技動作も、動作名だけで負荷の種類や病態は決まりません。どの局面で痛むかを、追加評価の手がかりにします。安全上の懸念があれば誘発評価を保留し、強い痛みや硬い抵抗を越えて動かしません。

※講義資料の写真を参考に、当メディアで描き起こしました(新規作図)。特定の競技動作を解析した図ではありません。

7

相談をもとに考える ─ 前面痛と硬い抵抗感

yagara(base)

八柄

組織を絞る前に、痛む場所と局面を整理するところまでですね。もう1つ、具体的な症例の声がありました。

自由記述(空白と句読点を整えています)

「変形性股関節症で屈曲90°あたりでの股関節の前面痛 屈曲90°で骨性の抵抗感あり。」

骨性の抵抗感があるということは、軟部組織への介入では変えられないのではないか。僕はそこで手が止まります。

saito(base)

齊藤

この情報だけでは、前面痛や抵抗感の原因は決められない。それを前提に、今日の順序で何を確かめるかを考えよう。

確かめる順は2つだ。

  1. 発症の経過、荷重時痛の有無、すでにある診断と画像所見を確認する。変形性股関節症の評価では、症状と身体所見に、必要に応じた画像所見を合わせて考える。
  2. 「骨性の抵抗感」を、それだけで骨形態と決めつけない。安全に評価できる場合に、骨盤の位置を変えたときの症状と可動範囲を比較する。骨盤と大腿の位置関係を記録し、強い痛みや硬い抵抗を越えて動かさない

骨形態の変化が今回の痛みや可動域制限にどれだけ関わるかは、画像だけでは決められない。診断や経過と合わない所見は、医師と共有してほしい。

yagara(wonder)

八柄

骨盤の位置を変えて可動範囲が変わったというだけで、骨盤側が原因だと考えていいんですか。

saito(base)

齊藤

それは言えない。ここで決めないことを、はっきりさせておく。

  • 変化があっても、骨盤側の要因とは確定できない。
  • 変化がなくても、骨形態が原因とは決められない。

変化の有無だけで、原因の組織や介入の可否は決めない。仮説を1つ増やすための観察だよ。

そのうえで、介入で変化を目指す機能と、医師に確認する病態を整理する。骨形態の変化があっても、運動療法や負荷の調整の適応がなくなるわけではない。

急な悪化、荷重が難しくなる、診断と所見が合わない。そういうときは医師へつないでほしい。

yagara(base)

八柄

骨性の抵抗感を「変えられない」と決める前に、診断と画像所見を確認して、安全に評価できるなら骨盤の位置を変えて比べてみる。それでも仮説が1つ増えるだけで、決め手にはしない。そういうことですね。

きょうの視点

  • 1つずつの可動域に加えて、骨盤の後傾を含めた複合運動も診る。単独の角度だけでは、患者さんの痛みや機能を説明しきれない例がある
  • 骨盤が後傾できると、骨のモデル上では股関節前方の余地が増える。骨盤10度の後傾で屈曲90度位の内旋が約5度増えたという計算の報告がある。実際の症状への影響は個別に確かめ、後傾を全員の目標にはしない
  • 体幹の運動は、筋力・可動性・協調性のいずれからも考える。改善の機序は、この記事では確定しない
  • 痛む動作の局面を、追加評価の手がかりにする。動作名だけで負荷の種類や病態を決めない。圧縮と伸長の2つの視点は鼠径部痛の分類ではない
8

今日の話の範囲と、評価を止める所見

saito(base)

齊藤

最後に、前提を3つ挙げるね。

  1. 今日話したのは診る順序で、診断の決め方ではない。FAI症候群は、症状・臨床所見・画像所見の3つを合わせて診断する。私たちだけで病名は決められない。
  2. 鼠径部痛への対応は、今日の話だけではない。注射や手術の適応判断は医師の領分だ。運動療法にも、今日触れなかった方法がある。
  3. 患者さんに指導する運動は、この記事では扱っていない。肢位・負荷・回数は、担当の療法士が個別に確かめて決める。

今日の順序が唯一の正解ではないよ。

yagara(base)

八柄

評価を止める所見は、図解4に出ていたもので全部ですか。

saito(base)

齊藤

評価をいったん止める目安は、図解4の最初に示したとおりだ。ただ、医師への相談が必要な所見は、ほかにもある。

  • 続く、あるいは強くなる安静時痛や夜間痛
  • 原因の分からない体重減少
  • 診断や、予想した経過と合わない症状

緊急度は、発症経過と併存する症状から判断する。急な悪化や新しい神経症状があれば、評価を止め、速やかに医師へ連絡する。

この一覧は網羅的ではない。該当しないだけで安全とは判断しないでほしい。疑わしければ、運動で症状を誘発する評価は保留して、医師に相談する。

yagara(base)

八柄

分かりました。病名を決めるのはここではないし、止める所見が出たら評価を進めずに医師へつなぐ。そのうえで、自分たちで確かめられる範囲を観察します。

saito(base)

齊藤

その先にあるのが、圧痛や症状の再現を問診・動作・ほかの所見と統合して、関与する組織の仮説を絞る評価だ。機能解剖と触診から体系的に学びたい人のために、記事の最後にセミナーの案内があるよ。

yagara(base)

八柄

ありがとうございました。可動域や筋力が改善しても痛みが残るとき、骨盤と大腿骨の連動も確かめる。冒頭の声は僕の状態そのものでした。明日は、体幹の筋力訓練に進む前に、骨盤の動きと症状を一緒に記録します。

saito(joy)齊藤
yagara(joy)八柄
火曜のLINEで、あなたが難渋した場面を教えてください。金曜に、そこから記事を1本お届けします。
9/12(土)開催 極める!運動器リハビリ FAISとグロインペインに対する理学療法(小野志操先生・9月12日開催)

【極める!運動器リハビリ】FAISとグロインペインに対する理学療法|機能解剖に基づいた股関節と体幹の治療戦略

記事の先にある、圧痛や症状の再現をほかの所見と統合して組織の仮説を絞る評価までを扱います。組織ごとの治療と、脊椎のモビリティを引き出す体幹への介入も同じ回です。機能解剖から体系的に学べるセミナーです。講師は、なか整形外科 京都西院リハビリテーションクリニック顧問で、整形外科リハビリテーション学会理事の小野志操先生。この記事のもとになった講義と同じテーマを、評価から治療・競技復帰まで3時間で扱う回です。

日時 9月12日(土)9:00〜12:00(WEBライブ・録画受講可能)
受講料 5,000円(メルマガ会員)
講師 小野志操先生

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1分で終わる簡単なアンケートです。いただいた声から、次回のテーマを決めています。

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編集部注記

本稿が扱うのは、体幹・骨盤の関与を検討するための観察の視点です。単一の角度、誘発テスト、触診だけで病態や疼痛源を確定するものではありません。関与する組織の仮説を絞る評価そのものは扱いません。

図は当メディアで作成しました。図解5・6は講義資料の写真を参考に描き起こし、スライド画像をそのまま掲載していません。

第5節の観察順序は、講義の治療課題などを参考に編集部が構成した観察例で、診断精度を検証した手順ではありません。

圧縮・伸長は、負荷を考える視点の例です。鼠径部痛の分類や、組織を決める基準ではありません。

本号の背景にある文献

  • Ross JR, Nepple JJ, Philippon MJ, Kelly BT, Larson CM, Bedi A. Effect of changes in pelvic tilt on range of motion to impingement and radiographic parameters of acetabular morphologic characteristics. Am J Sports Med. 2014;42(10):2402-2409.(大腿骨寛骨臼インピンジメント症例の画像から作った骨のモデルでの計算。骨盤10度の後傾で屈曲90度位の内旋が約5度増え、10度の前傾で約6度減った=図解1の根拠。症状や軟部組織の負荷を直接測った研究ではない)
  • Tully EA, Wagh P, Galea MP. Lumbofemoral rhythm during hip flexion in young adults and children. Spine. 2002;27(20):E432-E440.(若年成人の股関節屈曲で、平均すると股関節3度に対して腰椎1度の比率。動作中に両者の寄与の割合は変わる=股関節と腰椎の連動の根拠)
  • Bohannon RW, Gajdosik RL, LeVeau BF. Relationship of pelvic and thigh motions during unilateral and bilateral hip flexion. Phys Ther. 1985;65(10):1501-1504.(背臥位の股関節屈曲で、骨盤の回旋が屈曲の最初の8度以内に始まり、屈曲量の4分の1から3分の1を占めた=骨盤は屈曲の早い段階から動く根拠。角度で股関節側と骨盤側を分けない理由)
  • Hölmich P, Uhrskou P, Ulnits L, et al. Effectiveness of active physical training as treatment for long-standing adductor-related groin pain in athletes: randomised trial. Lancet. 1999;353(9151):439-443.(長期の内転筋関連鼠径部痛のアスリートで、8〜12週の能動的訓練群のほうが、治療終了4か月後の評価で疼痛なく競技復帰した人が多かった無作為化比較試験。体幹運動単独の効果ではない)
  • Reiman MP, Goode AP, Cook CE, Hölmich P, Thorborg K. Diagnostic accuracy of clinical tests for the diagnosis of hip femoroacetabular impingement/labral tear: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2015;49(12):811.(大腿骨寛骨臼インピンジメント・関節唇損傷を対象としたレビュー。このレビューの統合解析では、FADIRテストの統合感度は0.94〜0.99と高い一方、特異度は低かった。対象や参照基準に偏りがあり、単独で疼痛源や診断を確定できず、陰性でも一律には除外できない)
  • Weir A, Brukner P, Delahunt E, et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. Br J Sports Med. 2015;49(12):768-774.(鼠径部痛の国際的な臨床分類。第6節の圧縮・伸長は負荷を考える視点の例であり、この臨床分類とは異なる)
  • Griffin DR, Dickenson EJ, O’Donnell J, et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome (FAI syndrome): an international consensus statement. Br J Sports Med. 2016;50(19):1169-1176.(大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群は症状・臨床所見・画像所見の3つを合わせて診断する=第8節の根拠)

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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄

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