膝OAの深屈曲が改善しないのは、制限因子を組織名と層で特定できていないから〜正座・しゃがみ込みの可動
2026.09.04
深掘りセラピストマガジンVol.10|膝OAの深屈曲が改善しないのは、制限因子を組織名と層で特定できていないから〜正座・しゃがみ込みの可動域を獲得する〜
「しゃがみ込みの最終域での痛み」
本稿は、火曜のLINEに寄せられた声を出発点に、膝OAで深屈曲(正座・しゃがみ込み)の可動域を獲得しきれない症例を主題にした回です。吉井太希先生の講義内容と文献をもとに編集部が構成しました。
最多だった「疼痛源の絞り込み」には終盤で層の視点だけを置き、本題は別の回で扱います。荷重時痛・階段の話もそこで整理します。
記事の最後で案内する9月12日(土)のセミナーは、同じ膝OAを前方・内側部痛の評価から体系的に扱う回です。

八柄
齊藤さん、今日で10回目です。火曜のLINEに答えてくださったみなさん、ありがとうございました。今週の設問は「膝OAの症例で、いちばん難渋するのはどの場面ですか」。回答は39件でした。
最多は29件、膝前面や内側の痛みがどの組織由来かを絞り込めない。ここは後半で取り上げます。
今日の主題はもう一方の正座や階段など、患者さんが目標とする動作まで到達できないという8件の側です。このうち正座・しゃがみ込み、つまり深屈曲の獲得を扱います。
正直、僕自身が難渋しています。大腿四頭筋の筋力強化とROM-ex.で伸展制限が改善した症例でも、「正座ができるようになりますか」と聞かれたとき、最終域が改善しないんです。

齊藤
その組み立て自体は標準的だよ。伸展制限と大腿四頭筋の機能改善は、膝OAの運動療法で優先度の高い項目だからね。
分かれ目はその先だ。深屈曲を制限している組織を、組織名と層のレベルで特定できているか。屈曲と伸展で制限因子が別なのは基礎のとおりとして、屈曲側の因子をどこまで具体的に挙げられるかだね。

八柄
挙げられるのは大腿四頭筋の伸張性くらいです。あとは疼痛のない範囲でROM-ex.を反復して、角度の変化を待つ形になっていました。その先を組織名で挙げられません。

齊藤
問題は、深屈曲でどの組織への要求が大きく増えるのかを具体的に挙げて、確かめて、介入できるかだよ。
まず数字から見てもらうのが早い。膝蓋上脂肪体の超音波計測だ。
| 膝関節の肢位 | 腱側長(mm) | 伸展位を100とした比 |
|---|---|---|
| 伸展位 | 18.0 ± 1.1 | 100% |
| 屈曲 90度 | 22.2 ± 1.8 | 123.5% |
| 屈曲 120度 | 23.0 ± 1.6 | 128.3% |
| 最大屈曲 | 25.7 ± 1.3 | 143.1% |
| 正座位 | 28.5 ± 1.4 | 158.6% |
正座位では伸展位のおよそ1.5倍の長さが要求されます。90度から正座位までの増加は、伸展位から90度までの増加より大きく、可動域の後半でこの組織への要求が急増します。
※豊田和典ほか「膝関節屈曲時の膝蓋骨上脂肪体の動態観察」理学療法学Supplement Vol.40 Suppl.2(第48回日本理学療法学術大会)2012, 48101156 の報告値。健常男性10名(平均32.9歳)を対象とした超音波での計測で、膝OA例の値ではありません。増加率は同報告の値。

八柄
計測が130度前後までなら「改善」と記録できてしまいますが、要求が大きく増えるのはその先なんですね。

齊藤
そこが頭打ちの正体のひとつだよ。深屈曲まで進むと、大腿四頭筋腱そのものの硬さと、膝蓋上嚢と大腿骨のあいだの滑走性が問題になってくる。
膝蓋上脂肪体が肥厚すると、上を通る腱の曲率半径が増し、同じ角度に達するまでに腱側へ要求される距離が延びる。図で見てほしい。

表1では脂肪体側の伸長を見ました。こちらは、脂肪体が肥厚・硬化したときに腱側で何が起きるかの図です。同じ角度まで屈曲するのに、腱がより長い経路を要求されます。
※膝関節前面の位置関係を単純化した概念図(新規作図)。実際の解剖学的な形とは異なります(腱と大腿骨のあいだにある膝蓋上嚢・大腿骨前脂肪体は省略しています。実際の深さの順は図解2)。

八柄
腱そのものの硬さとは別に、脂肪体が厚くなった分だけ、腱に要求される長さが増えるんですね。

齊藤
大腿骨前面には大腿骨前脂肪体がある。膝蓋上嚢と大腿骨のあいだの滑走に寄与していて、屈曲可動域の改善を目的とした介入対象になることが多い部位だ。
それから膝蓋骨の下の膝蓋下脂肪体。ここは浅層と深層で受けている応力が異なる。同じ「脂肪体が硬い」でも、どの層の話かで評価も介入も変わってくる。
膝蓋下脂肪体は、浅層と深層で構造も受ける応力も異なることが報告されています。
健常成人15膝を対象に膝関節伸展中の動きを超音波で計測した研究では、深部の移動速度が 1.37 ± 0.13 cm/s、浅部が 0.80 ± 0.23 cm/s で、深部のほうが有意に速く動いていました。
この速さは、伸展中に組織が移動する速さの実測で、触診時の硬さを示すものではありません。同じ論文は、深部を膠原線維が多く変形しにくい層、浅部を圧を受けて変形する層と位置づけています。
つまり、同じ脂肪体でも層によって動態が異なるということです。触診で硬さを触知したときに「膝蓋下脂肪体が硬い」で止めず、浅層と深層のどちらかまで特定しておくと、次に何を狙うかが決めやすくなります。
なお、この計測は健常な若年成人の伸展運動での値です。膝OA例の深屈曲にそのまま外挿できるものではありません。

八柄
制限因子の候補を、位置と深さで整理してもらえますか。

齊藤
ここまで見てきた膝蓋上脂肪体に加えて、前面と内側でさらに6つ挙げよう。大腿四頭筋腱、膝蓋上嚢、大腿骨前脂肪体、膝蓋下脂肪体、それから内側の薄筋と内側広筋斜走線維だ。位置と深さは図で整理する。

番号は本文で挙げた順です。2の膝蓋上嚢と3の大腿骨前脂肪体は、同じ部位の深さちがい。触診で確かめるときは、この位置と深さの並びが土台になります。
※右膝を前方から見た向きで単純化した概念図(新規作図)。実際の形・大きさとは異なります。位置と深さの順は、Staeubliら(AJR 1999;173:691-698)・Rothら(AJR 2004;182:1383-1387)の解剖記載に基づきます。

齊藤
膝OAで各組織に何が起きるかも押さえておこう。深屈曲制限例では大腿四頭筋腱の組織硬度が高いことが多い。膝蓋上脂肪体は肥厚して硬度が増す。
膝蓋上嚢は癒着すると、二重膜特有の低摩擦の触知感が消える。消えていること自体が所見になる。膝蓋下脂肪体では深層の肥厚と膝蓋支帯の緊張上昇がみられる。
それから肢位だ。薄筋は屈曲90度から120度で表層へ移動し、内側広筋斜走線維は側臥位の他動屈曲でおおむね105度、座位では80〜90度で内側上顆を乗り越える(健常者の観察)。
肢位が変われば触れている組織が変わる。組織を取り違えたまま介入しても結果は出ないよ。

八柄
組織と層まで特定できたとして、可動域改善の介入はどう組み立てますか。

齊藤
介入は順序で組むと整理しやすい。まず大腿四頭筋の柔軟性から着手する。それでも深屈曲の可動域制限が残存する場合に、次へ進む。
次が膝蓋上脂肪体。膝蓋骨を尾側へ誘導しながら、脂肪体の上下方向の幅を広げるようにモビライゼーションを加える。大腿四頭筋腱が過緊張にならない角度設定が前提だ。
膝蓋下脂肪体には、深屈曲位で膝伸展方向への抵抗運動と弛緩を反復させる方法がある。10回程度でも即時的な角度変化が得られることが多い。仕上げに脂肪体を深層へ誘導する。
それと、どの段階も疼痛を誘発しない強度が前提だ。防御収縮が出るなら、その設定は強すぎる。
操作の強度や細部は誌面では再現しきれないから、ここでは順序の考え方までにしておく。緩めたら、その場で深屈曲を再評価する。ここは省かないでほしい。
順序の考え方です。この順序に入る前に、深屈曲を目標にしてよい膝かどうか(骨性の制限・主治医の方針・関節の状態)の確認が先です。各操作の強度・肢位・持続時間などの細部は、誌面では再現しきれません。実技で確認してください。
※講義内容をもとに当メディアで図式化(新規作図)。

八柄
ここで、最多の29件、膝前面や内側の痛みがどの組織由来かを絞り込めないを取り上げます。冒頭の「しゃがみ込みの最終域での痛み」も、この絞り込みと地続きの悩みだと思います。
自由記述には、こんな声もありました。
「膝蓋下脂肪体の可能性は感じているが、その後のアプローチ及び再評価で改善されない場面あり、難渋する」
膝蓋下脂肪体を疼痛源と見立てて介入したものの、再評価で改善が確認できず難渋している、という状況だと思います。

齊藤
そういうときの次の一手が、同じ組織の中を浅層と深層に分けてもう一度診ることだよ。
硬くなっている層と、疼痛を出している層は同じとはかぎらない。浅層を緩めて一時的に軽快しても、深層が硬いままなら再燃することがある。
その先の、絞った組織のどの層が疼痛源かを特定する評価体系は、今日の主題とは別の柱だ。回を改めて扱うよ。荷重時痛・階段の話もそこで一緒に整理する。

八柄
ありがとうございます。今日の整理です。
- 深屈曲の要求は可動域後半で急増する。正座位では伸展位の約1.5倍の腱側長が要求される
- 制限因子は組織名と層で特定する。候補は大腿四頭筋腱・膝蓋上嚢・膝蓋上脂肪体・大腿骨前脂肪体・膝蓋下脂肪体・薄筋・内側広筋斜走線維
- 肢位で触れている組織が変わることを前提に触診する
- 介入は大腿四頭筋から着手し、膝蓋上脂肪体、膝蓋下脂肪体へ順に進め、そのつど再評価する
きょうの視点
- 深屈曲の要求は可動域後半で急増する。膝蓋上脂肪体の腱側長は、正座位で伸展位の約1.5倍と報告されている(健常膝での計測)
- 制限因子は組織名と層で特定する。「大腿四頭筋が硬い」で止めない
- 癒着では低摩擦の触知感が消える。消えていること自体が所見になる
- 肢位で触れている組織が変わる。薄筋は屈曲90〜120度で表層へ移動し、内側広筋斜走線維は側臥位105度で内側上顆上に来る
- 介入は大腿四頭筋から着手し、浅層から順に、そのつど再評価。硬い層と疼痛を出す層は一致しないことがある

齊藤
最後に前提を2つ。変形が進み、骨形態そのものが可動域を制限している膝では、軟部組織への介入だけでは深屈曲は改善しない。治せる要因と治せない要因の仕分けが先だ。
それから深屈曲は膝への負荷が大きい肢位だよ。TKA後、骨折治療中、腫脹が強い時期などは、深屈曲を目標にすること自体が適切でない場合がある。主治医の方針と関節の状態の確認が先になる。
誌面で扱えるのは方針と順序までで、操作の強度や細部は実技でしか再現できない。そこは割り切ってほしい。

八柄
深屈曲を目標にしてよい膝かどうか、目標設定の適否から確認するのが前提ですね。

齊藤
深屈曲が改善しないのは、組み立てが間違っているからというより、制限している組織と層を特定しきれていないことがある。今日の整理が、その特定の足場になれば十分だよ。

八柄
ROM-ex.の反復で頭打ちだった理由は、制限因子を組織名と層で特定できていなかったことでした。今日はそういう話でした。
齊藤
八柄これからも、いただいた場面から毎週1本ずつ書いていきます。難渋した場面を、また火曜のLINEで教えてください。
膝OAの疼痛部位から病態を読み解く機能解剖と触診の極意|前方・内側部痛を解剖学的破綻から評価する
記事では、疼痛源の同定に「層で分ける」という1歩目までを置きました。前方・内側の疼痛が、どの組織から出ているのかを、機能解剖と触診から体系的に評価していくのがこちらのセミナーです。
講師は吉井太希先生。膝OAの疼痛部位から病態を読み解く手順を、解剖学的な破綻の見立てから評価へつなげて学べる3時間です。
※当日参加できない場合も、復習用動画を視聴できます(2週間限定・終了後4日以内に配信)
10回目の節目に、感想を聞かせてください
このマガジンは今回で10回目です。ここまで読んでこられて、率直なところどうでしょうか。1分で終わる簡単なアンケートです。いただいた声は、これからの回の作り方に反映します。
本号の背景にある資料
- 豊田和典, 山本泰三, 矢口治樹. 膝関節屈曲時の膝蓋骨上脂肪体の動態観察. 理学療法学Supplement. 2012;Vol.40 Suppl.2(第48回日本理学療法学術大会):48101156.(健常膝を超音波で計測。膝蓋上脂肪体の腱側長が伸展位18.0±1.1mmから正座位28.5±1.4mmへ増加)
- Nakanishi S, Morimoto R, Kitano M, Kawanishi K, Tanaka A, Kudo S. Difference in Movement between Superficial and Deep Parts of the Infrapatellar Fat Pad during Knee Extension. J Funct Morphol Kinesiol. 2021;6(3):68. doi:10.3390/jfmk6030068.(健常成人15膝。膝関節伸展中の移動速度は深部1.37±0.13cm/s、浅部0.80±0.23cm/sで深部が有意に速い=膝蓋下脂肪体を層で分けて診る根拠)
- Staeubli HU, Bollmann C, Kreutz R, Becker W, Rauschning W. Quantification of intact quadriceps tendon, quadriceps tendon insertion, and suprapatellar fat pad: MR arthrography, anatomy, and cryosections in the sagittal plane. AJR Am J Roentgenol. 1999;173(3):691-698.(MR関節造影と献体の矢状断解剖・凍結切片で大腿四頭筋腱と膝蓋上脂肪体を定量。膝蓋上脂肪体の確認率100%=図解2「深さの順」の根拠)
- Roth C, Jacobson J, Jamadar D, Caoili E, Morag Y, Housner J. Quadriceps fat pad signal intensity and enlargement on MRI: prevalence and associated findings. AJR Am J Roentgenol. 2004;182(6):1383-1387.(肥大した膝蓋上脂肪体が膝蓋上嚢を後方へ圧排する所見を評価したMRI研究=脂肪体が嚢の前面に隣接する解剖が前提。同根拠)
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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