TFCC損傷の後療法は、回外から始める|小野志操先生「極める!手関節の評価と理学療法」

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2026.09.02

TFCC損傷の後療法は、回外から始める|小野志操先生「極める!手関節の評価と理学療法」

2026年8月29日、小野志操先生の「【解剖学が武器になる】極める!手関節の評価と理学療法」を開催しました。

3時間の講義から、TFCC損傷の部分に絞って3つだけ書きます。どれも「なぜ回外なのか」という機序の話です。

以下は、事務局が受講して持ち帰った内容を、整理したものです。実際にどこまで動かすかは症例ごとに違うので、主治医の指示のもとで判断してください。

1. TFCCは、軟骨と靭帯でできた構造物として押さえる

TFCCの図を見て、どの線が何を指しているのか分からなくなったことはありませんか。

講義は、教科書でよく見るTFCCの図は、見ても何がどこを指しているのか分からない、という話から始まりました。

押さえるべきは2点です。TFCCは軟骨と靭帯のような組織でできていることと、DRUJ(遠位橈尺関節)をまたいで存在することです。

橈骨遠位端骨折の約70%にTFCC損傷が合併します。DRUJの骨性要素が安定に寄与する割合は20%程度で、主要な支持組織はTFCCと前腕骨間膜です。

図:右手関節の前額面イメージ。橈骨と尺骨の間のDRUJをTFCC(関節円板)がまたいでつなぐ。実質部損傷は橈骨が近位へ短縮して相対的に尺骨頭が突き上がることで起き、周辺部損傷は橈骨骨片の橈側転位で小窩・茎状突起の付着部が引かれて起きる
講義配布資料の記載をふまえ、概念図として新規作図しています(イメージ図。原画の転載ではありません)。DRUJの骨性要素20%は Stuart 2000、小窩と茎状突起基部への靭帯性の付着は Nakamura 2001 の所見です。損傷の2つの型は配布資料の記載によります。骨の形や位置関係は簡略化した模式図です。詳しくは配布資料・引用文献・セミナー本編でご確認ください。

損傷の型は2つです。実質部損傷は、橈骨の骨片が近位へ大きく短縮し、相対的に尺骨頭が突き上がる型で、DRUJの不安定性は出ません

X線では、radial length(橈骨長)の短縮と、ulnar variance(尺骨の突出)のプラスが手がかりです。

周辺部損傷は、橈骨の骨片が橈側へ大きく転位し、尺骨小窩の裂離断裂や尺骨茎状突起骨折を合併する型です。こちらは不安定性が出ます茎状突起は、基部で2mm以上転位するとDRUJの不安定性に関与します

回内すると尺骨頭が背側にぽこぽこ出てくる、あのタイプの患者さんです。

TFCCは軟骨でできているので、傷むと線維化でしか治りません。だからTFCC損傷は固定するしかない、と受け取りました。

保存療法でみる場合は、靭帯の治癒期間として回外位で12週の固定をみる、と理解しました。

この12週はTFCC損傷そのものを保存でみる場合の期間で、3章に出てくる橈骨遠位端骨折の術後4週間の固定とは別の話です。

明日からの1手(X線を読む順番)
① 橈骨の短縮(radial length・ulnar variance)か、橈側転位かを先に読む
② 橈側転位、または尺骨茎状突起基部の2mm以上の転位があれば、DRUJ不安定性を疑う
③ 疑ったら、回内位で尺骨頭が背側に出ないかを確かめる

2. 橈尺靭帯は、ねじれて交叉している。だから回外で締まる

橈尺靭帯の教科書図は、浅枝が尺骨茎状突起に、深枝が尺骨小窩に、対称に付着する絵です。講義では、この図を連続切片で調べ直した研究(Horiuchi 2020)が紹介されました。

結果は、教科書図とは違っていました。関節円板からの線維は、背側から掌側へ方向を変えながら茎状突起に付着します。深層から浅層へ、交叉しながら付着する構造です。

膝の前十字靭帯と後十字靭帯の関係に近い、と捉えると分かりやすいです。ねじれながら締まるので、形の違う骨どうしでも安定できます。だから回外で安定しやすい構造なのだ、と納得しました。

図:右手の尺骨遠位端を遠位から見たイメージ(上が背側、右が橈側)。関節円板からの線維が深層(小窩へ)と浅層(茎状突起へ)に分かれ、背側から掌側へ向きを変えながら交叉して付着する。回内位では浅層が茎状突起に巻き取られる方向に張力がかかりvolar rimが引かれ、回外位ではねじれが締まって安定する(回外位の安定は講義の解釈)
左=連続切片の所見(Horiuchi 2020)、右=回内位の張力は配布資料の解説(Saka 2021 の所見をもとにした講義)、回外位の安定は講義の解釈。いずれも講義で解説された内容をもとに概念図として新規作図しています(イメージ図。原画の転載ではありません)。線維の走行や付着部は簡略化した模式図です。詳しくは Horiuchi 2020・Saka 2021 の論文とセミナー本編でご確認ください。

もうひとつ、TFCCの深層は、橈骨の掌尺側(volar rim)に付くDRUJの関節包と連続しています(Saka 2021)。

回内位では、この線維が茎状突起に巻き取られる方向に張力がかかり、volar rimの骨片が引かれます

だから、過度な回内方向への運動には注意が要ります

明日からの1手(TFCC損傷・小窩部断裂・volar rim骨折を合併した橈骨遠位端骨折)
① 回外方向の可動域を先に確保する
② 回内の最終可動域は、早期に獲得しにいかない
③ TFCCの縫合や尺骨茎状突起の固定を行った術後は、回旋を始める時期について術者の指示が優先

3. TFCCは固定しかない。セラピストが動かせるのは、ECUと方形回内筋

では、固定期間のあいだにセラピストは何をするのか。DRUJの安定に関わる2つの筋が鍵になります。

ひとつめは尺側手根伸筋(ECU)です。腱鞘(サブシース)がTFCCをまたいで付いていて、ECUとサブシースがTFCC損傷患者のDRUJ不安定性を軽減します

ECUがDRUJを安定させるのは回外位と中間位で、回内位ではほとんど効きません(Iida 2012)。

TFCC損傷例では、尺屈のときにECUの動きが対照群と逆になります(Tanaka 2022)。だから、尺屈させずに中間位から回外位に置いておくことが重要だと分かりました。

サブシースは膜様の構造物なので、固定中に癒着します。だから4週間程度の中間位固定のあいだに、回外方向の可動域を確保して癒着を防ぐ必要があります。

講義でいちばん考えさせられたのは、グーパー運動と手首の曲げ伸ばしだけでは良くならないという点でした。

ふたつめは方形回内筋です。深頭がDRUJの関節包に付着していて、この深頭が拘縮すると、前腕は回内方向へ引かれて回外しにくくなります。

数字も示されました。献体8体の実験(Feeney 2014)で、方形回内筋の伸びを段階的に制限し、回外の可動域がどれだけ減るかを測ったものです。

伸びが1割減った程度では、回外は平均6°しか減りません。ところが2割減ると32°、3割減ると89°減ります。回外の参考可動域は90°なので、3割で回外がほぼ出なくなる計算です。

やり方もひとつ示されました。回外位でしっかり握ってもらうと、パワーグリップで深頭が浮き上がり、それだけで方形回内筋の深頭が動きます。

明日からの1手(固定期間中にできること)
① 中間位から回外方向へ、可動域を確保しながらECUを働かせる
② 方形回内筋は、回外位でのパワーグリップで深頭を浮き上がらせる
③ 開始の時期は、固定性と術者の指示に合わせる

明日の臨床、まずどこから

3つに共通するのは、回外でした。講義を通していちばん強く受け取ったのも、回外の可動域を先に出すことの大切さです。

回外方向の可動域を先に確保する理由(講義の3点)
TFCC →深層から浅層へ交叉する構造は、回外で締まって安定する。回内位ではvolar rimが引かれる
ECU →DRUJを動的に安定化するのは回外位と中間位。回内位ではほとんど効かない
方形回内筋 →深頭はDRUJ関節包に付着し、回外で巻き取られて浮き上がる。伸張が30%減ると回外は平均89°減る
講義と配布資料の内容を、記事の順に再構成しています

時期の目安は、術後2〜3週までに回外の可動域とfull grip(完全な握り込み)を確保し、回内の最終可動域は固定性や骨癒合を確認してから、という順番です。

骨癒合後に残る愁訴で最も多いのは握力低下(83.9%)、次いで手関節尺側部の痛み(74.2%)です。尺側部の痛みも、回外が制限されて出てくることが多い、という理解です。

握力計の使い方も、持ち帰った視点のひとつです。普通は1回目がいちばん強く、繰り返すと筋が疲れて落ちていきます。

ところが橈骨遠位端骨折の患者さんは、2回目、3回目のほうが強くなることがあります。屈筋腱が滑走しやすくなるためです。

握力計で測りながら何度も握ってもらうと、腱が滑ってきたことが数値で見えます。筋力の評価だけでなく、治療にも使える道具です。

明日からの臨床に活かしてもらえると嬉しいです。

ここに書けたのは、3時間のうちTFCC損傷にかかわる部分だけです。書けなかったことを、正直に挙げておきます。

  • ✅ 橈骨遠位端骨折の骨折型と、掌側ロッキングプレート後に長母指屈筋腱(FPL)が断裂しやすくなる条件
  • ✅ 橈側手根屈筋(FCR)・長母指屈筋・方形回内筋の触診と、実際の触り方
  • ✅ 舟状月状骨(SL)靭帯損傷とDISI変形の見つけ方、手根中央関節(ダーツスローモーション)の運動療法
  • ✅ 背屈可動域を出すための、掌側尺骨手根骨靭帯と背側関節包へのアプローチ
  • ✅ 手根管症候群(正中神経症状)の評価項目

詳細が気になる方は、セミナー本編もチェックしてみてください。

回外を先に取る理由を3つ持ち帰れた3時間でした。

この記事の出典(クリックで開きます)

記事の内容は、2026年8月29日の講義と配布資料をもとにしています。本文と図で挙げた研究のうち、書誌を確認できたものを並べました。

  1. Stuart PR, Berger RA, Linscheid RL, An KN. The dorsopalmar stability of the distal radioulnar joint. J Hand Surg Am. 2000;25(4):689-699.(DRUJの拘束の約20%は橈骨と尺骨の関節面の接触による。安定化の主役はTFCCの靭帯成分)
  2. Nakamura T, Takayama S, Horiuchi Y, Yabe Y. Origins and insertions of the triangular fibrocartilage complex: a histological study. J Hand Surg Br. 2001;26(5):446-454.(橈尺靭帯は尺骨小窩の広い面と茎状突起基部の狭い面から起こる)
  3. Iida A, Omokawa S, Moritomo H, et al. Biomechanical study of the extensor carpi ulnaris as a dynamic wrist stabilizer. J Hand Surg Am. 2012;37(12):2456-2461.(ECUがDRUJを安定させるのは回外位と中間位で、回内位では効果が小さい)
  4. Tanaka S, Inui A, Mifune Y, et al. Motion Analysis of the Extensor Carpi Ulnaris in Triangular Fibrocartilage Complex Injury Using Ultrasonography Images. Sensors (Basel). 2022;22(21).(TFCC損傷例と対照例のECUの動きを超音波で比較)
  5. Horiuchi S, Nimura A, Tsutsumi M, et al. Anatomical relationship between the morphology of the styloid process of the ulna and the attachment of the radioulnar ligaments. J Anat. 2020;237(6):1032-1039.(連続切片による橈尺靭帯の線維走行の検討)
  6. Saka N, Nimura A, Tsutsumi M, et al. Anatomic study of fibrous structures attached to the volar ulnar corner of the radius: implications in the volar rim fracture. J Hand Surg Eur Vol. 2021;46(6):637-646.(掌尺側に付着する線維構造とvolar rim骨折)
  7. Feeney MS, Wentorf F, Putnam MD. Simulation of altered excursion of the pronator quadratus. J Wrist Surg. 2014;3(3):198-202.(方形回内筋の伸張制限と回外可動域の関係)
 
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【解剖学が武器になる】極める!手関節の評価と理学療法
橈骨遠位端骨折・TFCC・手根管症候群
講師:小野志操先生(なか整形外科 京都西院リハビリテーションクリニック 顧問)
動画時間:3時間/視聴期間:2週間/受講料:5,000円

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