手のしびれを頸部だけで判断しない。手と肘も疑う〜整形外科テスト陽性だけで決めてしまっていませんか?〜
2026.08.28
深掘りセラピストマガジンVol.9|手のしびれを頚部だけで判断しない。手と肘も疑う~整形外科テストだけで決めていませんか?~
今回は、小野志操先生の肘・前腕に関する講義を視聴した齊藤と八柄が、そこで得た視点を手がかりに、読者から寄せられた「しびれや痛みの原因部位を絞れない」という悩みを整理します。
本稿は講義の逐語的な再現ではなく、編集部が独自に構成した受講報告です。
記事の最後で案内する8/29(土)のセミナーは、この講義とは別の、手関節をテーマにした回です。

八柄
齊藤さん、今日もよろしくお願いします。火曜のLINEに答えてくださったみなさん、ありがとうございました。
今週は「手関節の症例で、いちばん難渋するのはどの場面ですか」と聞きました。
26件の回答のうち、いちばん多かったのは16件で、しびれや痛みの原因が手関節にあるのか、頸部や肘に由来するのかを鑑別するときでした。
僕もここで止まります。手関節を触って、頸椎の可動域も診て、誘発テストもいくつか並べて。それでも、どこが痛いのかを言い切れないまま終わります。

齊藤
よく分かるよ。手関節は、診るべき組織が多いわりに、決め手になる所見が少ない場所だからね。
実はこの前、小野志操先生の肘・前腕の講義を一緒に視聴しただろう。僕はあそこで、この悩みを整理する手がかりをもらった。
今日は、講義で得た視点をもとに話したい。その前に、整理したいから先に聞かせてほしい。八柄くんはいま、どういう順番で診ている?

八柄
僕なりの手順はあるんです。まず頸椎を診て、次に肘、最後に手関節。近いところから遠いところへ、順番に潰していきます。
誘発テストで陽性が出れば、そこが原因だと考えます。陰性なら、次の部位へ移ります。
でも、陽性が2か所で出ることも、どこも陰性のこともあります。そうなると、もう決め手がありません。

齊藤
その順番そのものは、間違いではないよ。
ただ、ひとつ確認させてほしい。そのテストが陽性だったとして、何が痛いかまで分かった?

八柄
……いえ。陽性は出ますが、どの組織が痛みを出しているのかまでは分かりません。
陽性が出た時点で「ここだ」と思っていました。そこから先を考えてこなかった気がします。

齊藤
そこが最初の分かれ目だ。僕も講義を視聴するまで、ここを曖昧にしていた。誘発テストには、想定した組織や肢位に負荷をかけて、症状が再現されるかを見るものがある。
役割は、症状が再現されるかどうかを見ることだ。ただし、どれくらい当てになるかを示す感度や特異度は、検査と疾患の組み合わせごとに違って、ひとまとめには語れない。
つまり陽性は、単独では「その負荷で症状が再現された」ことを示すだけで、何が痛いかまでは決めてくれない。テストで決められないのは、腕の問題ではなく、テストの役割がそこまでだからだよ。
陽性の数を数えるだけでは、鑑別は進みません。症状を再現するテストだけでは、組織の同定まではできないためです。
※弊社過去開催セミナーの配布資料の内容をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。スライドの画像・原図は使用していません。

八柄
テストで決まらないとすると、僕たちは何を根拠に組織を絞ればいいんですか。画像も、手関節では所見と症状がうまく対応しないことがあります。

齊藤
身体診察でできるのは、圧す・伸ばす・収縮させる・動かすといった刺激で、症状がどう変わるかを確かめることだ。
その中で圧痛は、局所の組織が関わっている可能性を検討する手がかりになる。
ただし、関連痛や神経の過敏性でも圧痛は出る。だから、圧痛だけで原因組織は決められない。
圧痛だけでは原因組織を確定できない
圧痛は、その場所の機械的な過敏性を示す所見のひとつです。背景には、炎症、組織の損傷、神経の過敏性、関連痛、感作など、複数の可能性があります。
圧痛や触診で感じる硬さだけから、組織の線維化や原因組織を確定することはできません。
痛みと可動域制限は、重なって出ることがある
組織の滑りが落ちる場所と、痛みを出す場所が重なると、2つは同じ場所から同時に出ることがあります。ただし、いつも一緒に出るわけではありません。片方だけが先に変わることもよくあります。

八柄
……痛みと可動域制限を、別々の問題として2つ並べて考えていました。同じところから出ていることがあるんですね。
講義でも聞いたはずなのに、自分の症例に重ねて、いま初めて腑に落ちました。
可動域が戻らないから痛い、なのか、痛いから動かせないのか。順番をずっと考えていましたが、順番の話ではないこともあるのだと。

齊藤
そういうことだ。だから痛みの原因を絞るには、病歴と症状の分布、誘発テストや圧痛の所見を組み合わせて読む必要がある。画像が使える環境なら、それも合わせる。どれか1つでは決まらない。
そして組み合わせる所見の中で、自分の練習で精度を上げやすいのが圧痛所見だ。ここは解剖の知識と触診技術が、所見の取り方と解釈に影響する。

八柄
触診で手関節に圧痛を見つけたとします。でも、頸部から来ている可能性は、それで消えるわけではないですよね。
結局そこが分からなくて、近いところから順番に潰す手順に戻ってしまいます。

齊藤
そこで、僕が講義から持ち帰った向きがもう1つある。逆行性神経性疼痛という考え方だ。
報告されているのは、手根管と肘部管の圧迫への治療で、肩の痛みと可動域が改善したということ。手順は段階的で、夜間の装具から始め、残れば超音波ガイド下の神経ブロック、それでも戻る場合に外科的な解放へ進んでいる。
といっても、まだ対照群のない症例集積の段階で、確立した因果ではない。原因のはっきりしない肩の症状の一部で、この向きが関わっていたという報告だ。 (報告:Hagiwara ら 2022。書誌は文末の参考文献)
八柄くんの手順は、近位から遠位へ辿る一方向だろう。遠位の絞扼が近位の症状に関わっている可能性が、そこには入っていない。
近位から順に潰す手順に入っているのは、上の向きだけです。下の向きを持っていないと、手関節と肘部管は「症状が出ていない部位」として素通りされることがあります。
※症例集積の報告=Hagiwara ら(2022)Plast Reconstr Surg Glob Open(文末の参考文献)。

八柄
肩の痛みを診ているときに、手関節を触る発想がありませんでした。肩は肩、手は手で、別の担当のつもりでいました。

齊藤
難しいことはしていない。診断をつける検査ではなく、遠位を候補に残すかどうかを見るための観察だ。
見るものは2つに分けると持ちやすい。可動域なら、背屈と回外。触診なら、手根管だけでなくGuyon管や肘部管まで、神経の走行に沿って圧痛や違和感がないかを確かめる。
エコーが使える環境なら、必要に応じて補助に使う。どれも初診の数分で並べられるものばかりだ。
臨床で使われている観察のしかたで、診断精度が検証された検査ではない。だから、これで決めずに、候補を残すために使う。

八柄
可動域は測れます。でも、触診がいちばん自信がありません。
手関節の背側を触っても、腱がたくさん並んでいるとしか感じられなくて、いま何を触っているのかが言えないんです。

齊藤
並んでいるものを一度に触ろうとするからだよ。目印を1つ決めて、そこから数える。
手関節背側の伸筋腱は6つの区画に分かれていて、目印になるのが橈骨背側の小さな骨の隆起、リスター結節だ。
この結節のすぐ尺側を通るのが長母指伸筋の腱。母指をぐっと伸ばすと腱が浮き上がるから、自分の手でも位置を確かめられる。ここが第3区画だ。
1本決まれば、その橈側が第2区画、尺側が第4区画と数えられる。点ではなく面を意識して触るのが大事だよ。
ここまでは、背側の組織を触り分けるための足場の話。神経の絞扼そのものを決める手技ではないよ。
目印のリスター結節から第3区画が決まれば、残りは数えるだけです。いま何を触っているかを言えることが、触診の第一歩になります。
※標準的な解剖学の記載にもとづき、当メディアで作図(新規作図)。

八柄
触り分けができて、圧痛と、触診上の厚みの違いが確認できたとします。そのあとは、何から手をつけるんですか。

齊藤
それは、圧痛などの所見が見つかった組織と病態ごとに変わる。神経の絞扼が疑われるなら、症状と重症度を医師と共有して、必要な検査と治療方針を検討する話になる。
さっきの報告の手順は、あの症例集積の中で使われたもので、標準治療ではない。ここでは腱側の一例を挙げるよ。
一例が、手関節橈側で腱の交差部が問題になるインターセクション症候群だ。
解剖体を使った計測で、前腕と手関節の肢位によって橈骨背側にかかる圧が変わり、回内と尺屈の組み合わせで最も高くなることが示されている。 (計測:Yokota ら 2020・文末の参考文献)
だから出発点は、症状を出している負荷と肢位を特定して、減らすことになる。ただ、この計測から特定の固定肢位や徒手的な手順の効果を直接導くことはできない。
実際の対応は、病期や負荷、装具の適否、ほかの病態との鑑別も含めて、個別に組み立てる。 (保存療法の総説:Balakatounis ら 2017・文末の参考文献)
経過を追うときは、圧痛と可動域を同じ条件で測り続ける。エコーが使える環境なら、補助に使えばいい。

八柄
整理させてください。誘発テストには症状の再現を見るものがあり、陽性でも単独で原因組織までは決められない。組織は、病歴や症状の分布、圧痛の所見、使える環境では画像も合わせて、候補を絞る。
そして、遠位の絞扼が近位の症状に関わる可能性を持っておく。触るときはリスター結節を目印に数える。触ったあとは、症状を出している負荷と肢位を見直すところから始める。
きょうの視点
- 陽性の数だけでは鑑別は進まない。誘発テストの陽性は、単独ではどの組織かまで示さない
- 圧痛は候補を絞る手がかりのひとつ。関連痛や神経の過敏性でも出るため、単独では原因組織を確定できない
- 遠位から近位への向きを1つ持っておく。原因のはっきりしない肩の症状で、手関節と肘部管の絞扼を候補から外さない(症例集積に基づく仮説・一般化はしない)

齊藤
ただし、断っておくことがある。今日話したのは候補の残し方であって、原因の決め方ではない。
私たちは目の前の患者さんを診ていないから、この記事で原因を決めることはできないよ。
筋萎縮が進んでいる、夜間の症状が強い、感覚障害の範囲が広がっている。急に進む筋力低下や両側の症状、ボタンかけなど巧緻動作の低下、歩きにくさもだ。
こうした所見があるときは、自分の中で結論を出す前に、医師と共有してほしい。

八柄
分かりました。決められないことは決めない。そのうえで、外していた場所をもう一度疑う。それなら明日からできます。

齊藤
まとめると、今日の要点は1つだ。症状が出ている場所と、原因の場所は、同じとはかぎらない。
行き止まったときに、手関節と肘部管をもう一度候補に入れる。講義を視聴して、僕の診方がいちばん変わったのはここだ。
この見方は、橈骨遠位端骨折のあとの可動域制限でも、TFCC損傷の尺側の痛みでも、手根管症候群のしびれでも共通する。ただし、見るべき組織と負荷は病態ごとに違う。
機能解剖を知ることは、触れる場所を覚えるためだけではなく、症状の背景にある組織と負荷を考える根拠になる。小野志操先生の講義を視聴して、僕はそう整理した。
手関節を解剖から体系的に学びたい人のために、記事の最後にセミナーの案内を置いておくよ。

八柄
ありがとうございました。次の外来で、まず背屈と回外の可動域から確かめてみます。
触診だけで確定はできない、も忘れません。決めるためではなく、疑い直すための触診ですね。
手のしびれを頸部だけで説明しない。手関節と肘部管も疑う。今日はそういう話でした。
齊藤
八柄
【解剖学が武器になる】極める!手関節の評価と理学療法|橈骨遠位端骨折・TFCC・手根管症候群
この記事で扱ったのは、原因の候補を狭めすぎないための入口です。その先の病態ごとの評価と治療の組み立てを、機能解剖から体系的に学べるのがこちらのセミナーです。
講師は、なか整形外科 京都西院リハビリテーションクリニック顧問で、整形外科リハビリテーション学会理事の小野志操先生。橈骨遠位端骨折・TFCC損傷・手根管症候群の3病態を、機能解剖から評価と治療へつなげて学べる3時間です。
※当日参加できない場合も、録画した復習用動画を視聴できます
本号の背景にある資料
- Hagiwara Y, et al. “Idiopathic” Shoulder Pain and Dysfunction from Carpal Tunnel Syndrome and Cubital Tunnel Syndrome. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2022;10(2):e4114.(手根管・肘部管への段階的な治療後に肩関節痛と可動域が改善した症例集積〈夜間装具、神経ブロック、必要例では手術〉=逆行性神経性疼痛の報告)
- Yokota H, et al. Evaluation of the pressure on the dorsal surface of the distal radius using a cadaveric and computational model: clinical considerations in intersection syndrome and Colles’ fracture. Anat Sci Int. 2020;95(1):38-46.(解剖体10体+計算モデルでの圧計測。回内・尺屈で橈骨背側の圧が最大=肢位ごとの圧の差の根拠)
- Balakatounis K, et al. Synthesis of evidence for the treatment of intersection syndrome. World J Orthop. 2017;8(8):619-623.(インターセクション症候群の保存療法のエビデンスを整理した総説)
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄
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