随意性が戻るのをただ待つのではなく、戻ったときに動ける体を作っておく

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2026.08.21

深掘りセラピストマガジンVol.8|随意性が戻るのをただ待つのではなく、戻ったときに動ける体を作っておく

深掘りセラピストマガジン|Vol.8
対談:セラフォー齊藤 × セラフォー八柄

yagara(wonder)

八柄

齊藤さん、今日もよろしくお願いします。はじめに、火曜のLINEに答えてくださったみなさん、ありがとうございました。

今週は「上肢へのアプローチで、いちばん進め方に迷うのはどの場面ですか」と聞いて、37件の回答をいただきました。

いちばん多かったのは37件のうち19件で、随意性がほとんど出ない時期に、何を行えばよいか分からないときでした。練習では手が出るのに生活の中で使われないとき、が13件です。

臨床の場面を詳しく共有してくださった方もいたので、紹介させてください。

火曜のLINEに届いたお悩み

「肩の痛みに対して、マッサージやROM-exのみとなってしまいます」

痛みに対して、やれることがマッサージと可動域訓練で止まってしまう、という場面ですね。

僕も同じです。随意性が出るのを待ちながら、毎回同じメニューを繰り返して、これでいいのか分からなくなります。

saito(joy)

齊藤

よく分かるよ。私は、動かないものを前にすると、とりあえず触って緩めにいってしまう癖があってね。

家の食洗機の扉が固くてね。毎朝、開ける前にゴムのところを指で撫でてるんだよ。動きが変わったことは、一度もないのに。

yagara(base)

八柄

僕なりの手順はあるんです。可動域を測って、硬いところを伸ばして、ポジショニングを整えて。

でも翌週も、同じところが同じくらい硬いんです。可動域の数値も、先週とほとんど変わっていません。

随意性が出てくるまでは、それ以上のことはできないと思っていました。出てきてから本番が始まるんだと。

saito(ask)

齊藤

……八柄くん、いま私の食洗機の話、きれいに流したねぇ。まあいい。

それより、ひとつ聞いていい? その硬さ、何が硬いんだと思って触ってる

yagara(wonder)

八柄

痙縮だと思って触っています。伸張反射が亢進していて、速く伸ばすと引っかかる。

……と言いながら、ゆっくり伸ばしても硬いことのほうが多いんですよね。そこはあまり考えずにきました。

saito(base)

齊藤

そこなんだよね。脳卒中のあとの筋緊張や筋力低下は、ニューラル(神経性)ノンニューラル(非神経性)の2つの要素に分けて整理されている。

ニューラルは、中枢と末梢の神経の機能。随意性が戻るかどうかは、こちら側の話でね。

ノンニューラルは、筋そのものの長さと粘弾性。力学的な条件だから、介入で直接変えられる。

中枢神経疾患では、その長さと張力を保つこと自体が難しいと指摘されている。放っておくと短くなる側なんだよ。

ただ、待つといっても、ニューラルの側に手が出せないわけじゃない。緊張の高さは姿勢や努力の量で変わる。待つのは、回復そのものだけでね。

yagara(wonder)

八柄

分けるのは分かります。ただ、実際に触ると1つの硬さとして返ってくるんです。

どこで分けるんでしょうか。伸ばす速さを変えて確かめる、くらいしか思いつきません。

saito(base)

齊藤

速さで分かるのは、神経性の成分があるかどうか、まででね。どれくらい混ざっているかまでは読めない。

だから姿勢を変えて、同じ関節の硬さを比べる。そうすると分かれてくる。

たとえば、臥位でリラックスしているときは肘が伸びているのに、立って歩き出すと曲がってくる人がいるよね。

これはニューラル。短縮も拘縮も起きていなくて、姿勢の不安定さや過剰な努力で緊張が亢進している。だから姿勢が安定すれば緩む。

逆に、臥位で十分リラックスできているのに、肘が伸びてこない。

こちらはノンニューラル。筋の質そのものが変わってしまっているということでね。

実際には、2つが混ざっている方がほとんどだけどね。どちらが主かを知るために比べるんだよ。

安静時と動作時。臥位と立位。同じ関節を、条件を変えて2つ並べたときの差が、分かれ目になる。

記録に残すなら、速く伸ばして引っかかる角度(R1)と、ゆっくり伸ばした最終の角度(R2)を分けて書いておくといい。姿勢の比較と合わせると、翌週の変化を数字で追えるからね。

図解 | 硬さを2つに分ける。分け方は、姿勢を変えて比べる

触ると1つに感じられる硬さがニューラル(神経性)とノンニューラル(非神経性)に分かれること、そして臥位で緩み立位で硬くなるならニューラル、臥位でリラックスしていても伸びないならノンニューラル、と姿勢を変えて比べる手順を示した図

1回しか触らないと、この2つは同じ硬さに見えます。臥位と立位、安静時と動作時。同じ関節を、条件を変えて比べるだけで、回復を待つ要素が主なのか、今日から変えられる要素が主なのかが分かれます。

※過去開催セミナーの配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)

yagara(base)

八柄

それは明日からやってみます。今まで、座ったまま触って終わりで、臥位と比べたことがありませんでした。

ひとつ気になったんですが、僕が担当している方は、そもそも緊張が低いんです。手が重くて、だらんとしている。

それでも肘は伸びきらない。緊張が低いのに硬い、というのが、ずっと腑に落ちていません。

saito(base)

齊藤

そこ、いちばん厄介なところでね。短縮は、緊張が高いから起きるとは限らない

動きがないまま姿勢が崩れっぱなしでいると、低緊張のままでも筋は短くなる。適応した結果の短縮なんだ。

伸ばしながら支えるという活動がないから、伸び縮みできない。それが拘縮になっていく。

だから硬いと感じたときに、緊張が高いほうだけを疑うと読み違えるんだよ。弱くても、硬くはなる。

そしてもうひとつ。伸ばすだけだと戻る。なぜ動かなくなったのかを考えずに伸ばすと、また同じ硬さが返ってくる。

機序メモ | 伸ばすことの位置づけ

伸ばして終わり、では戻ります

持続的な伸張の直後に抵抗が下がる現象は、脊髄レベルの興奮性の変化に加えて、筋と腱の粘弾性の変化による部分が大きいと考えられています。

一方で、ストレッチ単独の効果を調べた系統的レビューでは、拘縮の予防や関節可動域の改善に、臨床的に意味のある効果は示されていません。

だからこそ、伸ばして得た長さを伸ばしながら支える活動で使うところまでが1セットです。遠心性と求心性の切り替えまで含めて、はじめて長さが保たれます。

記事末の文献(Harvey 2017/Gracies 2005)をもとに、当メディアで整理。

yagara(wonder)

八柄

戻るのは、まさに今の僕です。翌週また同じところが硬い。

その「なぜ動かなくなったのか」は、何から確かめていけばいいんでしょうか。

saito(base)

齊藤

硬さが出てくる順番をたどるといい。まず麻痺で、自分から筋を活動させにくくなる。

使われない筋は萎縮して、さらに弱くなる。弱くなると、関節と姿勢が不安定になる。

そこで拮抗筋を同時に収縮させて、関節を固める。これは体が安定を作るために出している活動でね。

つまり緊張が高いところの裏には、たいてい弱いところがある。硬さは結果のほうなんだよ。

だから緩めにいく前に、支えが足りているかを見る。順番を入れ替えるだけで、翌週の硬さが変わる。

図解 | 硬さは、どこから出てきているか

麻痺で筋を活動させにくくなり、萎縮と弱化が進み、関節と姿勢が不安定になり、拮抗筋の同時収縮で関節を固める、という連鎖を示す図。緊張が高いところの裏には弱いところがある

4だけを緩めると、3が残ります。残ったまま翌週を迎えるので、同じ硬さがまた返ってきます。緩める順番を後ろにずらすのは、そのためです。

※過去開催セミナーの配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。

yagara(wonder)

八柄

冒頭のお悩みに戻ります。書いてくださったのは、肩の痛みでした。

僕も、痛みのある肩は正直こわいです。無理に動かして悪化させたくないので、マッサージと可動域訓練に落ち着いていく感覚は分かります。

痛みのある肩は、何から見ていけばいいですか。

saito(base)

齊藤

肩こそ順番の話でね。私たちが肩関節と呼んでいるものは、5つの関節の複合体なんだよ。

肩甲上腕関節だけじゃない。肩甲骨と肋骨、鎖骨と肩甲骨、鎖骨と胸骨、そして肩峰の下の空間。

だから可動域をみるときは、肩甲骨の動きを先にみる。上腕骨を動かすのは、そのあと。

肩甲骨が止まっているのに上腕骨だけ挙げると、肩峰の下がせまくなる。挟み込みが起きる。

亜脱臼があるかどうかは、それ自体では痛みと結びつかないという報告もある。痛みの多くは、崩れたアライメントのまま動いたときに生まれるんだよ。

順番を守らないと、こちらの手で、患者さんの肩を痛めてしまう。これは自分への戒めとして毎回思っている。

図解 | 肩は、この順番でみる

肩を評価する順番として、骨盤と胸椎の伸展、肩甲骨の位置と動き、肩甲上腕関節、前腕と手、の4段階を示し、最初の2つを飛ばして肩甲上腕関節を動かすと肩を痛めることを示した図

指が曲がっているときも、指から開きにいきません。指を曲げる筋は肘の内側や前腕から始まっているので、先に前腕、その前に肩、その前に肩甲骨と骨盤、という順番になります。

※過去開催セミナーの配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。

yagara(wonder)

八柄

肩の話なのに、1番目が骨盤なんですね。そこが正直、いちばん意外でした。

骨盤と肩は、どうつながっているんですか。

saito(base)

齊藤

広背筋でつながっている。骨盤から上腕骨まで渡っている筋だからね。

骨盤が後傾すると、広背筋が伸張位になる。静止張力が上がって、肩の挙上が制限される

それだけじゃない。広背筋の作用は内旋だから、肩は内旋しやすくなる

骨頭が内旋して前方に引かれ、関節の適合が崩れたまま動かすと、まわりの組織が挟み込まれる。ここが疼痛の出どころになる。

そして挙上には外旋が必要でね。外旋が入らないと、大結節が肩峰にぶつかって、それ以上挙がらない。

ところが外旋筋は小さくて弱いんだよ。大胸筋や広背筋のような内旋筋のほうが、はるかに大きくて強い。

だから外旋は、外旋筋を鍛えて作るより先に、内旋筋が突っ張らない条件を作って出す。胸椎を伸展して、骨盤を起こす。

これは運動学的な見方のひとつでね。胸椎が丸いままだと肩甲骨が動けない、という経路も同時に走っている。ただ、骨盤を起こしてから肩に触れると、実際に変わる方は多いんだよ。

図解 | 姿勢の違いからみた広背筋の機能

「姿勢の違いからみた広背筋の機能」と題したスライド。骨盤後傾位と骨盤中間位を左右に並べ、広背筋を紫で示した側面図で比較し、骨盤中間位では広背筋の静止張力が低いため肩関節挙上を制限しないこと、骨盤後傾位では広背筋が伸張位になるため肩関節挙上は制限されることを解説している

骨盤後傾位では広背筋が伸張位になり、肩関節の挙上が制限されます。骨盤中間位では静止張力が低く、挙上を制限しません。肩に触れる前に、座面での骨盤の位置を戻します。

※過去開催セミナーの配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化。図版は当メディアで作成。

yagara(base)

八柄

座り直してもらってから肩をみる。順番を変えるだけなら、明日からできます。

同じことを、自主トレとしてご本人にもやってもらえますか。週に何回かしか会えない方だと、こちらが触れる時間はわずかです。

saito(base)

齊藤

やってもらえるよ。ただ、セラピストが手を離す条件を、運動ごとに決めておくのが先でね。

介入は近位から遠位へ、少しずつ手を減らしていく。全部いっぺんに離さない。

  1. 体をねじって手を伸ばす運動:非麻痺側を動かしても、麻痺側の上肢への影響が少なくなってきたら
  2. 壁を使った重心移動:非麻痺側の体幹と、麻痺側の股関節の伸展が出てきたら
  3. 杖を使ったバランス練習:上部体幹の伸展(肩甲帯のセッティング)が得られたら

共通の合図は2つ。運動中に麻痺側の肘や手が曲がってこないこと。そして痛みが出ないこと。どちらかが崩れるなら、まだ早い。

そして回数は、この合図が守れる範囲で決める。10回できる人は10回。守れないなら、量ではなく条件を戻す。

立って行う運動は、すぐつかまれる場所のそばでやってもらう。壁でも手すりでもいい。疲れている日は休む。回数より先に、場所を決めておくんだよ。

それぞれの運動の細かい手順までは、今日は踏み込まない。その方の姿勢や環境で変わるところだからね。今日は、どの運動にも共通する離す条件と合図の話まで。

図解 | 手を離す条件を、運動ごとに決めておく

3つの運動それぞれについてセラピストが手を離してよい条件を並べた表。共通の合図は、麻痺側の肘や手が曲がってこないことと痛みが出ないことで、回数はその合図が守れる範囲で決める

量を増やすのは、条件が守れたあとです。合図が崩れたまま回数だけ重ねると、崩れた組み合わせのほうを練習してしまいます。痛みが出たときは、回数が残っていてもその場で切り上げます。

※過去開催セミナーの配布資料の趣旨をふまえ、当メディアで概念図化(新規作図)。

yagara(base)

八柄

持ち帰りを整理させてください。

  1. 硬さは姿勢を変えて比べる。臥位で緩んで立位で硬いならニューラル、臥位でも伸びないならノンニューラル
  2. 低緊張でも短縮する。硬い=緊張が高い、と読まない
  3. 緩める前に、支えが足りているかを見る。硬いところの裏には弱いところがある
  4. 肩は骨盤・胸椎 → 肩甲骨 → 肩甲上腕関節 → 前腕と手の順にみる。上腕骨から動かさない
  5. 自主トレは手を離す条件を運動ごとに決め、回数は合図が守れる範囲で出す。痛みが出たらその場でやめる

どれも、随意性が戻るのを待たずに始められることでした。

きょうの視点(持ち帰り3つ)

  • 硬さは1回では分けられない。姿勢を変えて比べる。低緊張でも短縮は起きる
  • 肩は骨盤から順にみる。順番を飛ばして上腕骨を動かすと、患者さんの肩を、こちらが痛めてしまう
  • 自主トレは手を離す条件を先に決める。合図は、肘や手が曲がってこないことと、痛みが出ないこと

saito(base)

齊藤

ひとつだけ断っておくね。ここまでは、いただいた文面から立てた仮説でね。

とくに、痛みのある肩。実際に何が起きているかは、触ってみないと分からない。疼痛の原因は、ここでは決められない

それと、反射の亢進がとても強い方には、今日の話がそのまま当てはまらないこともある。

痛みが強い肩は、医師と共有したうえで進めてほしい。私たちが決めていい範囲の外にあることもあるからね。

とくに、夜も痛む。手が腫れてくる。皮膚の色が変わる。触れるだけで痛い。この組み合わせが見えてきたら、順番の話より先に医師へつないでほしい。今日の話の、外側にある痛みだからね。

最後にもうひとつ。随意性が出にくい時期の選択肢は、今日の話のほかにもある。電気刺激、ミラーセラピー、運動イメージの練習、ポジショニングや装具。今日のは、どれを選ぶにしても先に整えておく、土台の話でね。

yagara(base)

八柄

触ってみないと分からない、というのはその通りですね。文面だけで決めないことは、僕も気をつけます。

ただ、触る前に見ておけることが、今日はこれだけありました。座り方、肩甲骨、支えが足りているかどうか。

順番を決めてから触る。それだけで、来週の硬さが変わるかもしれません。

saito(joy)

齊藤

……よし。じゃあ私は今日から、食洗機のゴムを撫でるのをやめるよ。

代わりに、扉が何にぶつかって止まっているのかを、先に見ることにする。順番を変えるわけだ。

yagara(panic)

八柄

(苦笑)扉より先に、中の食器を減らしてください。毎朝ゴムを撫でている人の食洗機は、だいたい詰め込みすぎです。

……でも、撫でるのはやめないでください。緩めることも必要です。硬さの見かたも、肩も、今日はぜんぶ順番の話でしたよね。

随意性が戻るのをただ待つのではなく、戻ったときに動ける体を作っておく。今日はそういう話でした。

saito(joy)齊藤
yagara(joy)八柄
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本号の背景にある文献
  • Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. I: Paresis and soft tissue changes / II: Emergence of muscle overactivity. Muscle Nerve. 2005;31(5):535-571.(ニューラル/ノンニューラルの整理)
  • Harvey LA, Katalinic OM, Herbert RD, Moseley AM, Lannin NA, Schurr K. Stretch for the treatment and prevention of contractures. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017, Issue 1. CD007455.(ストレッチ単独の効果の限界)
  • Paci M, Nannetti L, Rinaldi LA. Glenohumeral subluxation in hemiplegia: an overview. Journal of Rehabilitation Research and Development. 2005;42(4).(亜脱臼と痛みの関連)

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企画 セラフォースタッフ 齊藤・八柄

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